肩に石灰が溜まる??

「肩に石灰が溜まっています」

肩の痛みで整形外科を受診し、レントゲン検査などを受けた際に、このように説明された経験がある方もいるかもしれません。

肩に石灰が沈着する代表的な病態が「石灰沈着性腱板炎」です。近年では、必ずしも強い炎症だけを意味するわけではないことから、「石灰沈着性腱板症」や「腱板石灰性腱症」と表現されることもあります。

特徴的なのは、画像上では石灰が確認されてもほとんど症状がない人がいる一方で、突然、夜も眠れないほどの強い痛みが出現する人もいることです。

つまり、重要なのは「石灰があるかどうか」だけではありません。

石灰がどこに存在しているのか、現在どの病期にあるのか、周囲に炎症が起きているのか、肩の機能がどの程度低下しているのかなどを総合的に考える必要があります。

この記事では、なぜ肩に石灰が溜まるのか、どのような症状が起こるのか、どのように診断・治療していくのかについて、肩関節の構造や病態を踏まえながら詳しく解説していきます。

目次

肩に石灰が溜まる「石灰沈着性腱板炎」とは?

石灰沈着性腱板炎の概要

石灰沈着性腱板炎とは、肩関節を安定させる「腱板」と呼ばれる腱組織の内部に、主としてハイドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウム結晶が沈着する病態です。

英語では「Rotator Cuff Calcific Tendinopathy」などと呼ばれます。

腱板は、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋という筋肉の腱によって構成され、上腕骨頭を肩甲骨の関節窩に安定させながら、腕を上げる・回すといった肩の動きを支えています。

この腱板内に石灰が形成されることで、周囲組織への刺激や炎症、腱板内圧の上昇などが生じ、肩痛や可動域制限につながることがあります。

ただし、「石灰が存在する=必ず炎症が起こる」というわけではありません。

石灰沈着があっても無症状の場合があり、逆に石灰が吸収されていく過程で非常に強い炎症反応が起こる場合もあります。

肩のどこに石灰が溜まるのか?

石灰は主に腱板の内部に形成されます。

特に多いのが「棘上筋腱」です。

棘上筋腱は上腕骨の大結節に付着し、腕を挙げる際や上腕骨頭を安定させる際に重要な役割を担っています。

そのほか、棘下筋腱や肩甲下筋腱などにも石灰沈着がみられることがあります。

また、石灰が吸収される過程で、腱板内だけでなく肩峰下滑液包など周囲組織へ石灰成分が流出することがあります。

このような状態では強い炎症反応が生じ、急激な肩の痛みにつながることがあります。

「石灰」とはそもそも何なのか?

「石灰」と聞くと、骨のような硬い物質が肩の中に突然できているイメージを持つかもしれません。

しかし、石灰沈着性腱板炎でみられる石灰の主成分は、骨にも含まれる「ハイドロキシアパタイト」と呼ばれるリン酸カルシウム結晶です。

病期によって石灰の性状も変化します。

形成されて安定している時期には比較的硬く、画像上も境界が明瞭に見えることがあります。一方、身体が石灰を吸収しようとする時期には、石灰が柔らかくなり、ペースト状に近い状態になることがあります。

そのため、同じ「肩に石灰がある」という状態でも、石灰の性状や病期によって症状は大きく異なります。

なぜ肩に石灰が溜まるのか?

石灰ができる明確な原因は分かっていない

実は、石灰沈着性腱板炎がなぜ発生するのかについては、現在でも完全には解明されていません。

「カルシウムを摂りすぎたから肩に石灰が溜まった」と考える方もいますが、一般的な食事からのカルシウム摂取量が直接的な原因になるという単純な病態ではありません。

現在は、腱組織の細胞が何らかの影響によって軟骨様の細胞へ変化し、その部分にカルシウム結晶が形成される「反応性石灰化」の考え方が広く知られています。

つまり、単純に血液中のカルシウムが腱に付着しているわけではなく、腱組織そのものに生じる細胞レベルの変化が関係していると考えられています。

腱板の変性と石灰沈着の関係

腱板に起こる病態というと、「加齢によって腱が傷んだから石灰ができる」と考えたくなります。

しかし、石灰沈着性腱板症を単なる腱の加齢性変性として説明することはできません。

代表的な病態仮説では、石灰が沈着する前段階で腱細胞の性質が変化し、線維軟骨様の組織が形成された後、その部分にカルシウム結晶が沈着すると考えられています。

その後、形成された石灰は一定期間とどまり、最終的には身体の免疫反応によって吸収されていくことがあります。

この「形成→安定→吸収→修復」という一連の過程が、石灰沈着性腱板症の特徴の一つです。

血流や組織環境との関係

石灰沈着が生じる理由として、過去には腱板の血流低下や局所的な低酸素環境なども仮説として考えられてきました。

確かに腱板は、部位によって血流や力学的負荷が異なります。そのため、局所の組織環境が石灰形成に影響している可能性は否定できません。

しかし、「血流が悪いから石灰が溜まる」と断定できるほど単純な病態ではなく、現在も複数の要因が関与すると考えられています。

臨床では、一つの原因に決めつけるのではなく、肩の使用状況や腱板機能、周囲組織の状態なども含めて評価することが重要です。

加齢だけが原因ではない

石灰沈着性腱板症は中年以降に多くみられますが、単純な老化現象とは考えられていません。

腱板断裂などの加齢性変化とは異なる病態メカニズムが存在すると考えられており、「年齢を重ねたから仕方がない」と片付けるべき病態ではありません。

また、画像上で石灰が確認されたとしても、それが現在の肩痛の主原因とは限りません。

年齢、症状の経過、石灰の形状、周囲の炎症、肩関節の可動性などを総合的に判断する必要があります。

石灰が溜まりやすい場所

棘上筋腱

石灰沈着が最も多くみられるのが棘上筋腱です。

棘上筋は肩甲骨から上腕骨大結節へ走行し、腕を挙げる動作や上腕骨頭の安定化に関与しています。

棘上筋腱周囲は肩峰下スペースと呼ばれる比較的狭い空間を通過するため、石灰の突出や周囲の滑液包炎が加わると、腕を上げる際に痛みが出現することがあります。

棘下筋腱

棘下筋腱にも石灰沈着が起こることがあります。

棘下筋は主に肩関節外旋に関与する筋肉であり、後方から上腕骨頭を安定させる重要な役割を担っています。

棘下筋側に石灰沈着がある場合には、肩後方の痛みや外旋動作に伴う症状がみられることがあります。

ただし、症状だけから石灰の位置を正確に判断することは困難なため、画像評価と身体評価を組み合わせて考えることが重要です。

肩甲下筋腱

肩甲下筋腱は肩関節の前方を走行し、主として内旋運動や上腕骨頭前方の安定性に関与します。

棘上筋腱と比較すると頻度は低いものの、肩甲下筋腱にも石灰沈着が認められることがあります。

肩前面の疼痛を訴える場合でも、上腕二頭筋長頭腱や関節包など複数の組織が関係するため、「前が痛い=肩甲下筋の石灰」と判断することはできません。

腱板付着部と石灰沈着の関係

石灰沈着は腱板の実質内や付着部周辺にみられます。

重要なのは、画像上の石灰の位置だけを見るのではなく、「その石灰が現在の症状と関連しているのか」を考えることです。

石灰の位置、形状、硬さ、周囲組織への波及などによって臨床症状は変化します。

そのため、画像だけではなく実際の動きや圧痛、可動域、筋力などを評価する必要があります。

石灰沈着性腱板炎ではどんな症状が出る?

突然起こる強い肩の痛み

石灰沈着性腱板炎の特徴的な症状の一つが、突然出現する非常に強い肩の痛みです。

特に石灰が吸収される「吸収期」では炎症反応が強くなり、これまで大きな症状がなかったにもかかわらず、急激に激痛が出現することがあります。

場合によっては腕をほとんど動かせないほど痛くなることもあります。

このような急激な疼痛は、石灰そのものが単純に腱を圧迫しているだけではなく、吸収過程に伴う炎症反応や滑液包への刺激などが関係していると考えられています。

夜間痛で眠れなくなることがある

強い炎症が起きている場合には、夜間痛が問題になることがあります。

「寝返りをすると痛い」
「横になるとズキズキする」
「痛い側を下にできない」
「何もしていなくても痛い」

といった症状がみられることがあります。

夜間痛が非常に強い場合、無理に運動やストレッチを行うことが適切とは限りません。

まずは炎症や疼痛をコントロールし、どの病期にあるのかを判断することが重要です。

腕を動かすと痛む

症状が比較的軽い場合には、安静時には問題がなくても腕を上げた際に痛みが出ることがあります。

特に肩峰下組織への機械的刺激が生じている場合、一定の角度で痛みが出る「ペインフルアーク」のような症状を認めることがあります。

ただし、同様の症状は腱板障害や肩峰下疼痛症候群などでもみられます。

そのため、動作時痛だけで石灰沈着性腱板炎と判断することはできません。

肩が上がらなくなることもある

疼痛が強くなると、腕を上げようとしても痛みのために動かせなくなることがあります。

この場合、「関節そのものが硬くなって動かない」のか、「動かす能力はあるものの痛みで動かせない」のかを区別することが重要です。

石灰沈着性腱板炎の急性期では、強い疼痛による防御性収縮によって大きく可動域が制限されることがあります。

一方、症状が長期化すると二次的に関節包が硬くなり、拘縮を伴うこともあります。

石灰があっても痛くないことがある?

石灰の存在と痛みは必ずしも一致しない

非常に重要なポイントです。

レントゲンで石灰が確認されたとしても、その石灰が必ず現在の肩痛の原因とは限りません。

石灰沈着は症状のない肩にも認められることがあります。

したがって、「石灰がありますね」という画像所見だけで、肩痛の原因をすべて説明することはできません。

画像所見と実際の症状が一致しているかを確認する必要があります。

石灰の大きさだけでは症状を判断できない

「石灰が大きいほど痛い」と考えてしまいがちですが、石灰のサイズと痛みの強さが単純に比例するわけではありません。

比較的大きな石灰があっても症状が軽い場合がある一方、小さな石灰でも吸収期に入り強い炎症が起これば、激しい痛みが出る可能性があります。

そのため、石灰の大きさだけではなく、形状や境界、硬さ、病期、滑液包への波及などを含めて評価する必要があります。

石灰の状態や病期によって症状が変わる

石灰沈着性腱板症には病期があり、その病期によって疼痛の出方が大きく異なります。

石灰が形成されて安定している時期には、ほとんど痛みを感じない場合があります。

一方、身体が石灰を吸収し始めると、免疫細胞が集まり炎症反応が起こるため、急激に強い疼痛が出現することがあります。

つまり、「石灰が増えたから痛い」のではなく、「石灰が吸収され始めたことで痛くなる」というケースもあるのです。

石灰沈着性腱板炎には病期がある

石灰が形成される時期

石灰沈着性腱板症では、まず腱組織に変化が起こる「前石灰化期」を経て、石灰が形成される段階へ進むと考えられています。

形成期ではカルシウム結晶が腱内に蓄積し、徐々に石灰沈着が形成されます。

この段階では症状が軽い、あるいは無症状の場合もあります。

石灰が安定している時期

形成された石灰が大きく変化せず、腱内に存在する時期を「休止期」と呼びます。

この時期には石灰が存在していても炎症反応が強くないことがあり、症状がほとんどみられないケースもあります。

画像上では比較的境界が明瞭で、密度の高い石灰として確認されることがあります。

「レントゲンでは石灰が大きいのに意外と痛くない」というケースでは、このような病期である可能性があります。

石灰が吸収される時期

石灰沈着性腱板症で最も強い症状が起こりやすいのが「吸収期」です。

身体が沈着した石灰を異物のように認識し、マクロファージなどの細胞が石灰を取り込み、吸収していきます。

その過程で強い炎症反応が生じます。

石灰が柔らかくなり、周囲の滑液包へ流出すると、急性の滑液包炎を引き起こす場合もあります。

その結果、安静時痛や夜間痛、激しい運動時痛などが出現します。

なぜ吸収期に強い痛みが出やすいのか?

吸収期では、石灰を除去するために免疫細胞が集まり、局所で強い炎症反応が起こります。

さらに腱内部の圧力上昇や、石灰成分による肩峰下滑液包への化学的刺激などが加わることで、非常に強い疼痛が生じると考えられています。

一見すると「石灰が悪化した」ように感じますが、実際には身体が石灰を吸収しようとしている過程で強い痛みが出ている場合があります。

石灰が吸収された後には組織の修復が進み、腱組織が再構築されていきます。

石灰沈着性腱板炎はどうやって診断する?

問診と身体所見

診断では、画像検査だけではなく問診と身体所見が非常に重要です。

いつから痛いのか、突然痛くなったのか、夜間痛があるのか、どの動作で痛いのか、仕事やスポーツでどのように肩を使用しているのかなどを確認します。

身体所見では、自動・他動可動域、疼痛が出現する角度、筋力、圧痛、腱板機能、肩甲骨の動きなどを評価します。

重要なのは、「画像に石灰がある」という情報と「患者さんが現在訴えている症状」が一致しているかを考えることです。

レントゲン検査

石灰沈着を確認する代表的な検査がレントゲンです。

石灰はレントゲン上で白く描出されるため、存在する位置や大きさ、形状などを確認できます。

さらに、境界が明瞭で密度の高い石灰なのか、境界が不明瞭で淡い石灰なのかといった画像の特徴が、病期を推測する材料になることがあります。

超音波(エコー)検査

超音波検査は、石灰沈着性腱板症の評価に非常に有用です。

石灰の位置や形状だけではなく、腱板や肩峰下滑液包など周囲組織の状態をリアルタイムに観察できます。

また、超音波ガイド下で石灰を穿刺・洗浄する治療を行う際にも使用されます。

レントゲンとエコーでは得られる情報が異なるため、必要に応じて組み合わせて評価します。

MRI検査

MRIでは腱板、筋肉、関節包、滑液包など軟部組織を詳細に評価できます。

ただし、石灰そのものの評価ではレントゲンや超音波検査の方が分かりやすい場合もあります。

MRIは、腱板断裂など他の病変が疑われる場合や、症状を石灰沈着だけでは説明できない場合などに有用です。

つまり、「石灰を見るためだけに必ずMRIが必要」というわけではありません。

腱板断裂や五十肩との鑑別

肩が痛くて上がらない病態は、石灰沈着性腱板炎だけではありません。

腱板断裂、肩関節周囲炎、凍結肩、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭腱障害など、さまざまな病態で似た症状が出現します。

そのため、画像上に石灰があったとしても、「すべて石灰のせい」と決めつけないことが重要です。

問診・身体所見・画像所見を組み合わせながら、どの組織が現在の症状に関与しているのかを考えていきます。

石灰沈着性腱板炎と五十肩は何が違う?

石灰沈着性腱板炎の特徴

石灰沈着性腱板炎では、吸収期に突然非常に強い痛みが出現することがあります。

痛みによって肩を動かせなくなることがありますが、関節そのものが硬くなっているとは限りません。

炎症が落ち着くにつれて比較的短期間で動きが改善するケースもあります。

五十肩(肩関節周囲炎)の特徴

一般的に「五十肩」と呼ばれる病態にはさまざまな状態が含まれますが、特に凍結肩では関節包の炎症や線維化によって、肩関節そのものの可動性が低下します。

そのため、自分で動かす「自動運動」だけではなく、他者に動かしてもらう「他動運動」も制限されやすいことが特徴です。

特に外旋など特定方向の可動域制限が目立つことがあります。

痛みと可動域制限から考えるポイント

石灰沈着性腱板炎の急性期でも、痛みによって肩は大きく動かしにくくなります。

そのため、「肩が上がらない」という症状だけでは五十肩との区別は困難です。

痛みが落ち着いた後も他動可動域制限が強く残る場合には、関節包の拘縮が関係している可能性があります。

一方、強い痛みが軽減すると比較的スムーズに可動域が戻るのであれば、疼痛による防御性制限の影響が大きかった可能性があります。

石灰沈着性腱板炎の治療方法

痛みが強い時期の治療

急性期、とくに吸収期では非常に強い疼痛が出現することがあります。

この時期に最優先されるのは、「無理に肩を動かすこと」ではなく、まず疼痛と炎症をコントロールすることです。

痛みが強い状態で無理にストレッチや筋力トレーニングを行うと、かえって症状を増悪させる可能性があります。

病期と症状を確認しながら、安静度や運動量を調整します。

薬物療法

疼痛や炎症の軽減を目的として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されることがあります。

特に急性期では痛みが非常に強く、日常生活や睡眠に大きく影響する場合があります。

薬物療法の適否は持病や他の薬との兼ね合いもあるため、自己判断で長期間使用するのではなく、医師の指示に従うことが重要です。

注射療法

強い炎症や疼痛がある場合には、肩峰下滑液包などへの局所注射が検討されることがあります。

特に滑液包炎を伴っている場合には、疼痛の軽減を目的として使用されることがあります。

ただし、「石灰がある人は全員注射をする」というわけではありません。

病期、炎症の程度、疼痛、既往歴などを踏まえて判断されます。

石灰を吸引・洗浄する治療

超音波で石灰の位置を確認しながら針を刺し、生理食塩水などを用いて石灰を洗浄・吸引する「超音波ガイド下穿刺洗浄術(barbotage)」が行われることがあります。

特に症状が持続している場合などに選択肢となる治療です。

ただし、その有効性は患者さんの状態や石灰の性状によって異なり、他の保存療法との優劣についても研究によって結果にばらつきがあります。

「石灰があれば必ず吸引した方がよい」というものではなく、症状や病期を踏まえて適応を判断することが重要です。

体外衝撃波治療

体外衝撃波治療(ESWT:Extracorporeal Shock Wave Therapy)が、慢性的な石灰沈着性腱板症に対して行われることがあります。

身体の外から患部へ衝撃波を照射することで、疼痛の軽減や石灰の吸収促進などを期待する治療です。

一定の有効性を示す研究がありますが、照射方式やエネルギー量などによって治療効果は異なります。

そのため、すべての患者さんに一律に行うのではなく、症状の経過や他の保存療法への反応を踏まえて検討されます。

手術が検討されるケース

多くの場合、石灰沈着性腱板症ではまず保存療法が選択されます。

しかし、保存療法を行っても長期間強い症状が残る場合や、日常生活・スポーツ・仕事への支障が大きい場合には、手術が検討されることがあります。

関節鏡を用いて石灰を除去したり、必要に応じて腱板や肩峰下組織を評価したりします。

手術の必要性は石灰の大きさだけでは決まりません。

症状の程度、経過、機能障害、保存療法への反応などを総合的に判断します。

リハビリでは何をする?

強い炎症がある時期は無理に動かさない

リハビリで最も重要なのは「病期を考えること」です。

急性期で安静時痛や夜間痛が非常に強い状態に対して、肩を無理に動かせばよいわけではありません。

痛みを誘発し続ける刺激は、筋緊張や防御性収縮を強め、結果として肩をさらに動かしにくくする可能性があります。

まずは疼痛を悪化させない姿勢や日常生活動作を検討しながら、症状の落ち着きを待ちます。

痛みの程度に合わせて可動域を確保する

疼痛が落ち着いてきたら、肩関節の動きを徐々に回復させていきます。

長期間肩を動かさない状態が続くと、二次的に関節包や周囲組織が硬くなり、拘縮につながる可能性があります。

そのため「痛いからずっと動かさない」のではなく、病期と疼痛反応を見ながら適切な範囲で運動を再開することが重要です。

肩甲骨や胸郭の動きを評価する

肩の挙上運動は、肩関節だけで完結するものではありません。

肩甲骨、鎖骨、胸郭、胸椎などが連動することで、頭上まで腕を挙げることができます。

痛みが続くと肩関節をかばうために肩甲骨の運動パターンが変化したり、胸郭の動きが低下したりすることがあります。

そのため、リハビリでは石灰が存在する腱板だけを見るのではなく、肩甲帯や体幹を含めた運動機能を評価します。

腱板機能を段階的に改善する

疼痛が落ち着き、可動域が改善してきた段階では、腱板の機能回復も重要になります。

腱板には単純に腕を動かすだけではなく、上腕骨頭を関節窩に安定させる役割があります。

そのため、低負荷の外旋・内旋運動などから開始し、徐々に負荷を高めながら肩の安定性を改善していきます。

スポーツ復帰を目指す場合には、最終的に競技特有のスピードや負荷へ段階的に近づけていく必要があります。

痛みが減った後の再発予防

痛みがなくなったことと、肩の機能が完全に回復したことは同じではありません。

疼痛によって低下した筋力や可動域、肩甲骨・体幹との協調性などが残っている場合があります。

その状態で仕事やスポーツの負荷だけを元に戻すと、別の肩障害につながる可能性があります。

そのため、症状の改善後も「痛みがないか」だけではなく、必要な動作を十分な機能で行えているかを確認することが大切です。

石灰があるなら肩を動かさない方がいい?

急性期とそれ以外では対応が異なる

「石灰がある=肩を動かしてはいけない」というわけではありません。

重要なのは病期です。

強い炎症が起きている急性期には、疼痛を悪化させる運動を控える必要があります。

一方、炎症が落ち着いているにもかかわらず長期間まったく動かさない状態が続くと、二次的な可動域制限や筋力低下につながる可能性があります。

つまり、「動かす・動かさない」の二択ではなく、現在の状態に合わせて運動量を調整することが重要です。

痛みを我慢したストレッチには注意

「硬いから伸ばさないといけない」と考え、強い痛みを我慢しながらストレッチを行うことがあります。

しかし、炎症が強い時期に無理なストレッチを繰り返すことは、必ずしも適切ではありません。

痛みの原因が単なる筋肉の硬さではない可能性があるからです。

どの方向で痛いのか、安静時痛があるのか、翌日に症状が増えていないかなどを確認しながら負荷を設定する必要があります。

「石灰を動かして取る」という考え方ではない

リハビリによって石灰を直接押し流したり、揉みほぐして砕いたりするわけではありません。

石灰沈着性腱板症には自然な吸収過程があり、身体自身が石灰を処理することがあります。

リハビリの役割は「石灰そのものを手技でなくすこと」ではなく、疼痛を悪化させないように管理しながら、可動域・筋力・肩甲帯機能などを回復させることにあります。

石灰は自然になくなることがある?

身体に吸収されるケースがある

石灰沈着性腱板症の大きな特徴が、「石灰が自然に吸収されることがある」という点です。

形成された石灰は永久に残り続けるとは限りません。

吸収期になるとマクロファージなどの細胞によって石灰が処理され、徐々に縮小・消失していくことがあります。

そのため、画像上で石灰が確認されたからといって、必ず手術で除去しなければならないわけではありません。

石灰が残っていても症状がなくなることがある

さらに重要なのは、「画像上の石灰の消失」と「症状の改善」が必ずしも同じタイミングで起こるわけではないことです。

多少石灰が残っていても痛みがなく、日常生活やスポーツに支障がないケースもあります。

反対に、石灰が小さくても炎症反応が強ければ痛みが強くなることがあります。

そのため、治療効果を「石灰が何mm小さくなったか」だけで判断するのは十分ではありません。

石灰を完全になくすことだけが治療目的ではない

治療で重要なのは、画像を正常にすることだけではありません。

最終的な目標は、

「痛みなく生活できる」
「腕を十分に動かせる」
「必要な筋力を発揮できる」
「仕事やスポーツへ戻れる」

といった機能の回復です。

画像所見は重要ですが、画像だけを治療するのではなく、その人の症状や生活機能を含めて評価することが大切です。

肩に石灰があると言われたらどうすればいい?

まずは現在の病期と症状を把握する

「石灰があります」と言われたときに最初に考えたいのは、石灰をどうやってなくすかではありません。

現在、

  • 安静時痛があるのか
  • 夜間痛があるのか
  • どの動きで痛いのか
  • 肩をどの程度動かせるのか
  • 急激に痛くなったのか
  • 以前から石灰が存在していたのか
  • 石灰がどのような形状なのか

といった情報を整理することが大切です。

同じ石灰沈着でも、急性期と慢性期では適切な対応が大きく異なります。

石灰だけでなく肩全体を評価する

石灰がレントゲンに写っていると、どうしてもそこだけに目が向きます。

しかし、実際の肩機能は、腱板・関節包・滑液包・肩甲骨・胸郭・筋力など複数の要素によって構成されています。

さらに、画像上の石灰が偶然存在しているだけで、別の病態が現在の痛みに関係している可能性もあります。

そのため「石灰があるから石灰を治療する」という単純な考え方ではなく、肩全体を評価する視点が重要です。

強い痛みがある場合は早めに医療機関へ相談する

突然肩に激痛が出現し、腕をほとんど動かせない、夜も眠れないといった場合には、自己判断で無理な運動を行わず整形外科などの医療機関へ相談することをおすすめします。

石灰沈着性腱板炎だけではなく、感染、骨折、腱板断裂など、他の病態との鑑別が必要になる場合もあります。

特に発熱や強い腫れ、外傷後の激痛、明らかな筋力低下などを伴う場合には、早めの評価が重要です。

まとめ

肩に石灰が溜まる代表的な病態が「石灰沈着性腱板炎(石灰沈着性腱板症)」です。

腱板の中にハイドロキシアパタイトを主成分とするカルシウム結晶が沈着する病態ですが、なぜ石灰が形成されるのかについては現在も完全には解明されていません。

重要なのは、

「石灰がある=痛い」
「石灰が大きい=重症」
「石灰がある=すぐに取らなければならない」

とは限らないことです。

石灰沈着性腱板症には、形成期・休止期・吸収期・修復期といった経過があり、特に身体が石灰を吸収しようとする吸収期に強い炎症と疼痛が生じることがあります。

そのため、レントゲンで石灰の有無だけを見るのではなく、現在どの病期にあるのか、周囲に炎症があるのか、肩関節の可動域や筋力がどうなっているのかを評価することが重要です。

また、石灰は自然に吸収されることもあり、画像上で多少残っていても症状が消失するケースがあります。

治療の目的は「石灰を完全に消すこと」だけではありません。

痛みを改善し、肩の可動域や筋力を取り戻し、仕事・家事・スポーツなど、その人が必要とする活動へ戻れる状態をつくることが本当のゴールです。

肩に石灰があると言われた場合には、石灰という画像所見だけにとらわれず、「今、肩の中で何が起きているのか」を病期と機能の両面から考えていくことが大切です。

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