目次
小脳出血の臨床評価:1〜5年目が押さえるべき「評価の解像度」
小脳出血の患者さんを担当した際、「失調があるから重錘バンド」「ふらつくから歩行器」という短絡的な思考に陥っていませんか?
大事なのは、「その失調が、どの解剖学的・生理的メカニズムから来ているのか」を推論する力です。
1. 意識レベルとバイタルの「質」を評価する
新人のうちはJCS/GCSのスコアを追うだけで精一杯になりがちですが、小脳出血では「変化の兆候」を読み取る必要があります。
臨床的気づきのポイント
- 「なんとなくウトウトしている」はレッドフラッグ:脳幹圧迫や水頭症の初期症状は、完全な昏睡ではなく「軽度の意識混濁」や「活気の低下」から始まります。昨日までリハに積極的だった人が「今日は生返事が多い」と感じたら、直ちにバイタルと瞳孔を確認してください。
- クッシング現象の先行:脳圧が上がると、体は脳血流を維持しようとして血圧を上げ、代償的に脈拍を下げ(徐脈)ます。リハ開始時に「血圧が高いな」と思ったら、脈拍数もセットで確認し、普段より徐脈傾向なら脳圧亢進を疑います。
2. 運動失調の「中身」を分解して評価する
「失調があります」という報告では不十分です。運動のどのフェーズが障害されているかを評価します。
① 測定障害(Dysmetria)と企図振戦
- 評価法: 指鼻試験。
- 臨床的気づき: ターゲットに届かないのか(過少)、行き過ぎるのか(過大)?
- 過大(Hypermetria)であれば、制動(ブレーキ)をかける拮抗筋の動員タイミングが遅れている証拠です。これは「ゆっくり動く」練習が有効かどうかの判断基準になります。
② 変換運動障害(Dysdiadochokinesis)
- 評価法: 回内回外テスト。
- 臨床的気づき: リズムが崩れるのか、それとも可動域が小さくなるのか?
- リズムの崩れは、小脳側葉(半球)のタイミング制御機能の低下を示唆します。ADR(着替え)のボタンかけや、食事動作の予後予測に直結します。
③ 体幹失調(Trunkal Ataxia)
- 評価法: 座位・立位でのスタティックおよびダイナミックバランス。
- 臨床的気づき: 「どっちに倒れるか?」を確認。
- 虫部(中央)の損傷なら前後左右に全方位でふらつきますが、半球(片側)の損傷なら、患側へ吸い寄せられるように倒れます。倒れる方向が一定なら、環境設定(手すりの位置など)で早期離床が可能です。
3. 画像所見と臨床症状の「答え合わせ」
CTやMRIを見て、以下の3点を評価用紙にメモしてください。
| チェック項目 | 臨床的気づき(1-5年目視点) |
| 第四脳室の圧迫度 | 「ハの字」に見える脳室が潰れていないか? 潰れていれば、リハ中の怒責(いきみ)は厳禁です。脳圧をさらに上げます。 |
| 小脳上脚・中脚への波及 | 小脳の「出入り口」です。ここが壊れていると、末梢からの感覚情報が入らず、フィードバック制御が絶望的に困難になります。 |
| テント上への進展 | 小脳出血が上に広がると、意識レベルだけでなく高次脳機能障害(CCAS:小脳認知情動症候群)が出ることも念頭に置きます。 |
4. 離床時に必ず確認すべき「眼球運動」
小脳は眼球運動の制御に深く関わります。
- 注視方向性眼振(Gaze-evoked nystagmus):右を見ようとすると右側にピクピクと眼球が揺れる現象。
- 臨床的気づき:これが強いと、患者さんは「景色が流れる」「常に酔っている」感覚になります。リハ中に嘔気が増悪する場合、運動負荷ではなく「視覚情報の過多」が原因かもしれません。リハ室ではなく静かな個室で、視線を固定した練習から始めるべき、という判断材料になります。
5. 新人がやりがちな「NGリハ」と「推奨アプローチ」
- NG:とりあえず足首に重錘バンドを巻く
- 重錘は固有感覚入力を強めますが、外した途端に失調が戻る「リバウンド」が起きやすいです。重錘を「治療」ではなく、食事中の「一時的な補助具」として使い分けられていますか?
- 推奨:コア・スタビリゼーション(中枢部固定)
- 末梢の失調を止めるには、まず体幹(プロキシマル)の安定が必要です。座位で「四つ這い」に近い姿勢をとり、肩甲帯や骨盤帯への圧縮(近似圧)を加えることで、小脳への固有感覚入力を高めるアプローチを優先しましょう。
まとめ:あなたの「気づき」が急変を救う
1〜5年目の皆さんに意識してほしいのは、「リハビリの手技」よりも「病態の監視」です。
小脳出血は、昨日まで元気に歩いていた人が、翌朝には水頭症で昏睡している可能性がある疾患です。
- 意識レベルの微細な変化
- 画像上の解剖学的リスク(脳幹との距離)
- 失調の成分分析
この3点を軸に評価を組み立ててみてください。
