被殻出血の急性期〜回復期リハ
被殻出血(putaminal hemorrhage)は高血圧性脳出血の代表的部位のひとつで、内包(とくに後脚)に近接するため、急性期から対側の運動麻痺を呈しやすいのが特徴です。血腫そのもの(一次損傷)に加え、血腫拡大・脳浮腫・頭蓋内圧亢進などの二次損傷が時間経過で進行し得るため、急性期は「軽症に見える」ケースでも慎重な評価が求められます。
本稿では、被殻出血を理解するうえで重要となる①発生機序 ②病態 ③重症度評価 ④リハビリ介入(急性期・回復期)を、臨床でそのまま使える形に整理します。
被殻出血の概要
被殻出血は基底核領域(被殻)に生じる脳内出血で、出血が内包に及ぶと重度の片麻痺や感覚障害が出現しやすく、さらに血腫が前方・後方・上方へ進展すると、失語や注意障害など高次脳機能障害も多彩になります。
発生機序(なぜ被殻に出血するのか)
被殻領域は穿通枝(レンズ核線条体動脈など)が栄養する深部構造で、慢性的な高血圧などにより小血管が脆弱化すると破綻し、脳内出血を起こします(高血圧性脳出血の典型)。
病態の整理(一次損傷と二次損傷)
- 一次損傷:血腫による脳実質破壊・圧迫
- 二次損傷:血腫拡大、周囲浮腫、頭蓋内圧亢進、脳灌流低下など
急性期の肝は、「今の麻痺」だけでなく、今後の悪化(血腫拡大など)を疑って追跡する視点です。
主要症状(運動・感覚・高次脳機能)
- 運動:対側片麻痺(内包近接の影響)
- 感覚:対側の表在・深部感覚障害
- 構音/嚥下:構音障害、顔面麻痺、意識低下に伴う嚥下リスク
- 高次脳機能(左右差)
- 左半球:失語が問題になりやすい
- 右半球:半側空間無視、注意障害が問題になりやすい
進展により認知・情動面の障害も残り得ます。
重症度評価(意識・神経所見・画像)
- 意識:GCS/JCS(単回ではなく“経時変化”)
- 神経所見:NIHSSなどで系統立てて記録
- 画像:CT中心(必要に応じ追加画像)
脳内出血の評価と管理の枠組みはAHA/ASA等のガイドラインが体系的です。 - リハビリ介入の要点(急性期・回復期)【追加】
急性期の介入設計:まず“安全条件”を固定する
急性期リハの目的は、ざっくり言うと 「悪化させない」+「廃用を作らない」+「回復期につながる種まき」です。
近年の整理では、早期(概ね24〜48時間以降を含む)でのリハ開始が推奨される一方、過度な“超早期・高負荷”は慎重という文脈で語られます。急性期の介入設:まず“安全条件”を固定する
1) 介入前の安全スクリーニング
- 意識レベルの変動(JCS/GCSの変化)
- 新規の頭痛、嘔気・嘔吐、急な傾眠
- 麻痺の急な増悪、瞳孔所見の変化
- バイタル(血圧・脈拍・SpO₂)の不安定
- 脳室穿破や浮腫の増悪リスクが高い所見の有無(医療チーム共有)
ポイント:リハの中断判断は「疲労」よりも、「神経症状の変化」を最優先に置くこと。脳出血は二次損傷が怖い病態です。
急性期:端座位〜立位の進め方(5ステップ)
ステップ1:ベッド上(覚醒・呼吸・循環の土台)
呼吸・体位調整・疼痛管理・麻痺側を放置しないポジショニング
- 呼吸介助、体位調整、胸郭可動性
- 皮膚トラブル・疼痛・浮腫の予防
- 早期から“麻痺側を放置しない”ポジショニング(肩亜脱臼・疼痛予防)
再評価:覚醒・呼吸状態・血圧の安定
ステップ2:端座位導入(起立性低血圧と体幹制御)
起立性低血圧と体幹制御。無視/注意障害があるなら環境設定もセットで。
- 起き上がりは“介助量を減らす”より“安全性と左右対称性”を優先
- 麻痺側の荷重入力(坐骨・足底)を作る
- 無視/注意障害があると座位が崩れるので、環境設定(視線・物品配置)も介入
再評価:端座位での血圧変動・症状(めまい/悪心)・座位保持時間
ステップ3:端座位での前提課題(立位のための準備)
足底接地、骨盤前傾と体幹前傾の協調、麻痺側への小さな確実な荷重移動。
- 足底接地の再学習(踵荷重、前足部荷重の切替)
- 体幹前傾と骨盤前傾の協調(“立ち上がれる形”)
- 麻痺側への重心移動を「小さく・確実に」作る
再評価:荷重左右差、体幹の崩れ方、注意・理解の持続
ステップ4:立位(血圧・姿勢・支持性の確立)
“立つ”より“立位保持”。崩れ方(膝折れ/反張/内反)を把握して条件調整。
- まずは“立つ”より“立位保持”を安定させる
- 膝折れ/反張/足部内反など、崩れ方のパターンを把握
- 必要に応じて装具・支持具の検討(チームで)
再評価:立位中の神経症状変化、下肢支持性、疲労の質
ステップ5:その場足踏み〜一歩(歩行ではなく“準備歩行”)
歩行距離を伸ばすより、麻痺側支持の成立を優先。翌日に悪化しない範囲で。
- まずは“麻痺側で支える”練習(荷重保持)
- 一歩は「健側から出す/麻痺側から出す」より、麻痺側支持が成立しているかで判断
- 無理に歩行距離を伸ばさず、質と安全性を優先
再評価:介助量、崩れの再現性、翌日の疲労・症状
急性期で“よく詰まる”論点と対策
- 麻痺が重い=歩行練習ができないではない
→ ベッド上・座位・立位の「支持性・対称性・注意制御」を作ることが、回復期の歩行を加速します。 - 高次脳機能(無視/注意)があると、運動麻痺以上に転倒リスクが上がる
→ 環境設定(視覚誘導、物品配置、声かけの一貫性)をリハ介入として明確化しましょう。 - 回復期の介入:評価→仮説→介入→再評テンプレ
回復期のゴール
回復期は「歩けるか」だけでなく、ADL/IADL・復職・社会参加まで見据えて行います。
- 運動(麻痺・筋緊張・協調性)
- 感覚
- 高次脳機能(注意・無視・失語)
- 体力
を“セットで底上げ”します。
1) 評価(例:歩行に直結するように)
機能(Impairment)
- 下肢:選択運動、共同運動、筋緊張、足部・膝のコントロール
- 体幹:回旋・側方制御、骨盤帯の可動性
- 感覚:足底・深部感覚
- 高次脳機能:注意/無視(右半球)、失語(左半球)
活動(Activity)
- 立ち上がり、立位保持、方向転換、歩行(速度・対称性・安全性)
- 転倒リスク(TUG等)
参加(Participation)
- 自宅環境、家族介助量、屋外歩行、仕事・趣味
2) 仮説(“歩けない原因”を一文で言う)
例)
- 「麻痺側支持が作れず、健側依存で歩行が崩れる」
- 「足部のクリアランス不良+注意障害で屋内転倒が多い」
- 「体幹の側方制御不良で立脚が不安定になる」
ポイント:仮説は1つに絞らず、主仮説1つ+副仮説1つまで。
3) 介入(よく効く“介入の束”)
麻痺側支持の再建
- 立脚での荷重保持(時間・質)
- 骨盤〜体幹のアライメント調整
- 反張・膝折れへの戦略(課題条件の調整、装具検討など)
推進力とクリアランス
- 股関節伸展の獲得(歩行後半の推進)
- 足関節背屈・足部コントロール(引っかかり対策)
- 歩行の「速度」より「安全性と再現性」を先に作る
高次脳機能が絡む場合(右被殻出血に多い)
- 無視があるなら、環境設定と視覚探索を歩行課題に組み込む
- デュアルタスクは“転倒しない範囲で段階化”
回復期で見落としやすい“合併問題”
- 肩の疼痛・亜脱臼(麻痺側上肢の扱い)
- 痙縮・拘縮(放置すると歩行の質が頭打ち)
- 抑うつ・意欲低下(活動量が落ちると回復も落ちる)
まとめ
被殻出血は内包に近い深部出血のため片麻痺が前景に出やすい一方、進展や脳室穿破で失語・無視・注意障害などがADLを大きく左右します。
急性期は「早く動かす」より先に、介入前後で意識・神経所見・頭痛/嘔気・バイタルの変化を確認し、変化があれば病態悪化を疑って即共有。離床は段階づけ+再評価で安全に進めます。
回復期は歩行量を増やすより、麻痺側支持の再建と、無視/注意などを含む**高次脳機能への配慮(環境設定・課題設計)**をセットで行い、評価→仮説→介入→再評価の型で精度を上げることが、回復を加速させます。
