神経内科と脳神経外科の違いとは?脳卒中でどちらに行く?

脳卒中や神経系の不調を感じたとき、受診先として「神経内科」と「脳神経外科」のどちらを選ぶべきか迷う方は少なくありません。両者はともに脳や神経を専門とする診療科ですが、その治療アプローチ、対応疾患、介入のタイミングには本質的な違いがあります。本記事では、神経内科と脳神経外科の役割を深く掘り下げ、脳卒中を軸に「どのような場面で、どちらを選ぶべきか」について、臨床現場に即した観点から詳しく解説していきます。

目次

神経内科と脳神経外科の基本的な違い

両者の診療領域は一部重複しているものの、疾患の捉え方や治療手段には決定的な違いがあります。理解を深めることで、適切な医療へつながる一歩となります。

専門とする疾患の範囲

神経内科は、「脳・脊髄・末梢神経・筋疾患」など、中枢神経から抹消に至るまでの機能障害を対象とします。多くの疾患は、進行性または慢性で、長期的な経過観察や薬物管理を要します。代表例には、以下のようなものがあります。

  • パーキンソン病
  • アルツハイマー型認知症
  • 多発性硬化症
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  • てんかん
  • 頭痛性疾患(片頭痛など)

これに対して脳神経外科は、構造的異常や外傷、緊急性の高い疾患への外科的介入を主体とします。以下のような状況で主導的な対応を取ります。

  • 脳出血、くも膜下出血などの出血性疾患
  • 頭部外傷(硬膜外血腫、慢性硬膜下血腫)
  • 脳腫瘍(良性・悪性)
  • 水頭症(シャント術適応)
  • 頸椎症や椎間板ヘルニアに伴う脊髄圧迫

診療スタイルと治療方針の違い

神経内科は「診察・神経学的所見の重視・薬物療法の最適化」が柱となり、慎重に経過を追いながら生活支援も視野に入れた包括的管理を行います。とくに脳血管障害後の高血圧・脂質異常症・糖尿病などのコントロールは、再発予防の観点で重要な役割を担っています。

一方、脳神経外科は「画像診断・手術による病変除去・侵襲的手技」のエキスパートであり、急性期の治療方針決定において即断即決を要する場面が多く、時間との闘いとなるケースがしばしばです。高い手技的スキルと判断力が求められます。

脳卒中の種類と診断の流れ

脳卒中は発症時の対応次第で後遺症の程度や生存率が大きく変わる疾患です。的確な診断・分類に基づいた初期治療が生死を分けます。

脳卒中の分類と発症メカニズム

脳卒中は以下の3大分類に分かれ、それぞれ原因・症状・対応が異なります。

  • 脳梗塞(ischemic stroke):動脈硬化や心原性塞栓などにより脳の血管が閉塞し、酸素供給が断たれる。症状の進行は比較的緩徐なことが多いが、「起床時に気づいた」など時間不明なことも多く、治療選択が難しい場合もあります。
  • 脳出血(intracerebral hemorrhage):高血圧などで脳内の細い動脈が破綻し、出血によって脳実質が圧迫される。突然の意識消失や激しい頭痛、嘔吐などを伴いやすく、出血量によっては緊急手術が必要です。
  • くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage):脳動脈瘤が破裂し、脳を包むくも膜下腔に血液が流れ込む。致死率が高く、「人生最悪の頭痛」と形容される突発的な激痛が特徴です。

診断に用いられる検査とその目的

初期対応では、画像診断の選択が鍵となります。

  • CT(非造影):出血性病変の早期把握に有用。特に発症数時間以内の脳出血やくも膜下出血の診断に威力を発揮します。
  • MRI(DWI, MRA):急性期脳梗塞の検出に優れ、病変部位の特定や再灌流治療の可否判断に役立ちます。
  • 血液検査・心電図・頸動脈エコー・ホルター心電図:脳卒中の背景疾患(心房細動、脂質異常、動脈硬化など)の評価に用いられ、再発予防方針の決定に不可欠です。

脳卒中で受診すべき診療科とは

脳卒中は「いつ、どこで、どのように症状が出たか」が重要です。その情報によって、どの科の医師が介入するかが大きく変わります。

発症直後に優先される診療科

症状発現から数時間以内である場合、一刻も早く救急車で搬送されることが最も重要です。この段階では、出血性か虚血性かの判断すらつかないため、画像診断と緊急対応を担える脳神経外科医のいる病院への搬送が原則です。

脳梗塞に対しては、発症から4.5時間以内であればt-PA静注療法(血栓溶解)が適応となる場合があります。この判断には、脳神経外科と神経内科の協働が求められます。

また、重篤な意識障害や呼吸不全を伴うケースでは、ICUや脳卒中ユニット(SCU)を持つ高度急性期医療機関での集中的な管理が必要です。

回復期・慢性期における医療の選択

急性期を乗り越えた後は、障害の固定と再発予防、生活支援が中心課題となります。ここでの主治医は、神経内科医が中心となることが一般的です。

神経内科では以下のような役割を担います。

  • 高血圧・糖尿病などの危険因子管理
  • 抗血小板薬や抗凝固薬の選定・管理
  • 高次脳機能障害や麻痺の長期的観察
  • リハビリの評価と調整
  • 介護・福祉サービスとの連携

慢性期では、多職種による包括的支援(地域包括ケア)が求められ、神経内科がその軸となるケースが増えています。

医療機関の選び方と受診のポイント

急性期の対応だけでなく、その後の治療環境やサポート体制も、患者のQOLに大きく影響します。医療機関選びの視点も専門的に押さえておきましょう。

脳卒中に強い病院を見極める

厚生労働省が定める「脳卒中センター」「地域医療支援病院」では、脳神経外科・神経内科・リハビリ科が常駐しており、24時間体制の画像診断、t-PA治療、緊急手術が可能です。

また、脳卒中専門医(日本脳卒中学会認定)や神経内科専門医の在籍も信頼性の高い指標となります。病院の公式サイトや地域の医療情報ガイドを活用しましょう。

迷ったときの相談先と情報収集の方法

迷ったときは、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談するのが有効です。また、厚労省の「医療情報ネット」や各自治体の福祉保健局でも、専門医療機関や相談窓口が案内されています。

また、患者家族が知っておくべきFAST(Face, Arm, Speech, Time)のサインも重要です。顔のゆがみ、腕の麻痺、ろれつが回らないといった症状に気づいたら、迷わず119番通報し、病院への搬送を最優先してください。

まとめ

神経内科と脳神経外科はどちらも脳卒中に関与しますが、関わるタイミング・治療の主軸が大きく異なります。急性期の診断・手術・救命は脳神経外科、回復期以降の管理・再発予防・QOL支援は神経内科が主導する構図です。

脳卒中においては、発症直後の対応スピードが生死と後遺症を左右します。そのため、まずは「どちらの科に行くべきか」を考えるよりも、速やかな救急受診と適切な施設選定が最優先です。

回復後も、信頼できる神経内科医のもとで再発予防・生活支援を受けることが、患者と家族の未来を支える鍵となります。「脳卒中=一過性の病気」ではなく、生涯を見据えた医療の入り口としての受診選択を大切にしましょう。


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