目次
1. 回復期における臨床推論の展開
回復期では、血腫による直接破壊(一次損傷)を、残存した小脳組織や他の脳領域がいかに「代償(補完)」できるかが鍵となります。
- 急性期: 脳圧と全身状態の管理(守りの要素)
- 回復期: 内部モデル(予測制御)の再構築(攻めの要素)
ここで重要な推論は、「なぜその動作ができないのか?」を以下の2軸で分けることです。
- フィードバック障害: 動いている最中の修正が効きすぎて振戦(過修正)が起きる
- フィードフォワード障害: 動作開始前に姿勢を整えられない(予測できない)
2. 評価:生活動作に直結する「3つのチェックポイント」
回復期で見るべきは、ベッド上の検査結果よりも「環境変化への適応力」です。
① 視覚依存度の評価(感覚代償の確認)
- 方法: 閉眼での座位保持やリーチ動作。
- 推論: 閉眼で著しく不安定になる場合、小脳の固有感覚処理を「視覚」で過剰に代償しています。このタイプは夜間のトイレ歩行で転倒リスクが急増することを予測します。
② 予測的姿勢調節(pAPA)の評価
- 方法: 立位で「素早く腕を挙げる」「ボールをキャッチする」。
- 推論: 腕が動く前に体幹がガチッと固まらない(先行制動の欠如)。これが歩行時の「足の出しにくさ」や「ふらつき」の本質となります。
③ 認知負荷の影響
- 方法: 歩きながら計算をする、会話をする(Dual-task)。
- 推論: 運動が自動化されていないため、注意を運動制御に使い果たしています。認知負荷で失調が増悪するなら、屋外歩行は時期の調整が必要となります。
3. 治療アプローチ:可塑性を引き出すステップ
ステップ1:中枢部(体幹・近位関節)の安定化
小脳は「比較照合」の場所です。体幹がグラグラでは比較の基準(軸)が定まりません。
- 介入: 四つ這いや肘支持座位での「近似圧(Compression)」。
- 狙い: 固有感覚入力を強め、小脳への入力を促通します。
ステップ2:末梢の自由度の制限と段階的解放
- 介入: 初期のリーチ練習では、セラピストが肘を軽く支え、肩関節だけの運動に限定させます。
- 狙い: 計算(脳の負担)を減らし、成功体験を積ませます。上手くできれば徐々に支えを離し、自由度(関節の数)を増やします。
ステップ3:タイミングとリズムの学習
- 介入: メトロノームを用いた等尺性・等張性収縮。
- 狙い: 小脳の「タイマー機能」を再学習させます。歩行も「イチ、ニ」のリズム入力があるだけで劇的に安定する症例が多いです。
4. 臨床的気づき:新人へのアドバイス
「重錘(ウェイト)」の使い時を間違えない
重錘は「感覚入力を増やす(入力系)」と「慣性で動きを抑える(出力系)」の2つの側面があります。
- 使い過ぎの罠: 重錘を重くしすぎると、筋力で無理やり抑え込む癖がつき、それが新たに固定へと繋がってしまいます。小脳による微調整機能がさらにサボらせないようなアプローチが必要です。
- 卒業の目安: 動作が安定してきたら、重錘を50gずつ減らすなど、「失調の中で自分で制御する練習」へ移行させる勇気を持ってください。そこの誤差修正こそが小脳の調整機能の促通となります。
5. まとめ
回復期のリハビリは、「患者の脳内に新しい運動の地図を書き込む作業」です。 『固定を固定として良しとしない。』単に歩行距離を伸ばすのではなく、「どのような感覚を使って、どうバランスを取っているか」という戦略を評価し、介入することが重要となりなす。
