膝の内側痛は、理学療法士・トレーナー・医師いずれの立場でも日常的に遭遇する訴えです。その中でも「鵞足炎」と「半月板損傷」は、痛みの部位が近接し、動作時痛も類似しやすいため、臨床で混同されやすい代表的な疾患です。
しかし両者は、病態・組織特性・負荷のかかり方・回復戦略が本質的に異なるため、鑑別を誤ると治療方針が噛み合わず、慢性化や再発を招きやすくなります。
本記事では、解剖・運動学・臨床推論の視点を統合しながら、「なぜその痛みが出ているのか」「どうすれば見分けられるのか」を、実践レベルで整理していきます。
膝内側痛を起こす代表的な二つの疾患
鵞足炎とは何か
鵞足炎は、縫工筋・薄筋・半腱様筋の三筋が合流して付着する鵞足部に生じる炎症性障害です。多くはオーバーユース障害として発症し、ランニング、ジャンプ、方向転換、階段昇降といった反復的な膝屈伸動作が引き金となります。
重要なのは、鵞足炎は単なる局所炎症ではなく、「動作の結果として起こる障害」であるという点です。股関節機能低下、体幹制御不良、下肢アライメント異常などが背景に存在し、結果として鵞足部への牽引ストレスが増大します。
鵞足部の解剖学的特徴と負荷のかかり方
鵞足部は脛骨内側近位前面に位置し、膝関節の屈曲・内旋制御・内側安定性に関与します。歩行やランニングの立脚期では、これらの筋が遠心性に活動し、脛骨の前方移動や外反・外旋ストレスを制御しています。
そのため、股関節外転筋や殿筋群の機能低下、過剰な膝外反動作が存在すると、鵞足部に慢性的な牽引負荷が集中します。つまり、鵞足炎は局所だけを診ても改善しにくい疾患であると言えます。
半月板損傷とは何か
半月板損傷は、膝関節内に存在する内側・外側半月板の線維軟骨が損傷を受けることで生じます。急性外傷による断裂だけでなく、スポーツや日常生活の中で徐々に進行する変性損傷も非常に多く、年齢や活動レベルに応じて病態は多様です。
特に内側半月板は可動性が低く、屈伸と回旋が組み合わさる動作で剪断ストレスを受けやすい特徴があります。
半月板の役割と損傷メカニズム
半月板は、荷重分散・衝撃吸収・関節適合性の向上・安定性確保という複数の役割を担っています。
損傷が生じると、関節内での滑走が阻害され、特定の角度や荷重条件下で疼痛や機械的症状が出現します。特に、回旋動作や深屈曲位で症状が顕在化しやすく、関節内構造物由来の痛みという点が鵞足炎との大きな違いです。
痛みの出方から見分けるポイント
鵞足炎に特徴的な痛みの性質
鵞足炎の痛みは、比較的表在的で局所に限局した鈍痛・圧痛として訴えられることが多いです。運動後や翌日に症状が強くなるケースが多く、「動かし始めは痛いが、動いているうちに軽減する」と表現されることもあります。
これは炎症性疼痛と筋・腱由来疼痛の特徴を併せ持つためで、ウォームアップ効果が一時的な症状軽減をもたらすことがあります。
圧痛部位と動作時痛の傾向
脛骨内側近位部、関節裂隙よりも遠位前方に明確な圧痛点が存在します。階段下降、ランニング終盤、長時間の歩行後など、負荷が蓄積したタイミングで痛みが出現するのが特徴です。
また、膝を軽度屈曲位にして圧迫すると疼痛が増強するケースも多く、触診による再現性が高い点が重要な鑑別ポイントとなります。
半月板損傷に特徴的な痛みの性質
半月板損傷では、「膝の奥が痛い」「中で何か挟まる感じがする」といった表現が多く、痛みの部位が曖昧なことも少なくありません。
特定の動作や角度で鋭い痛みが出現し、痛みの出方にムラがあるのも特徴です。
ロッキング・引っかかり感の有無
半月板損傷の大きな特徴が、ロッキングやキャッチングといった機械的症状です。膝が途中で伸びなくなる、動かすとコクッと音がする、といった訴えがある場合は、半月板由来の可能性が高まります。
これらの症状は鵞足炎では基本的に出現しないため、問診段階での重要な鑑別材料となります。
動作・機能面からの鑑別
日常動作・スポーツ動作での違い
鵞足炎は、反復動作や累積負荷により徐々に症状が悪化する傾向があります。一方、半月板損傷では、特定の動作をきっかけに急激に症状が出現することも多く、発症のタイミングが比較的明確です。
スポーツ動作では、方向転換・ストップ動作・深いしゃがみ込みで症状が出るかどうかが重要な判断材料になります。
階段昇降・しゃがみ動作での反応
階段下降時に痛みが強い場合、遠心性筋活動の影響が大きい鵞足炎を疑います。一方、しゃがみ込みや立ち上がり動作の途中で鋭い痛みや引っかかり感が出る場合は、半月板損傷の可能性が高まります。
触診・徒手検査での考え方
触診は、両者を見分けるうえで極めて重要です。鵞足炎では、圧痛点が明確で、触れることで患者自身も「そこです」と即答できることが多いです。
半月板損傷では、関節裂隙部の圧痛や、徒手検査による症状誘発が判断材料になります。
圧痛点と誘発テストの使い分け
マクマレーテスト、テッサリーテスト、Apleyテストなどで症状が再現される場合、半月板損傷の疑いが強くなります。
一方、これらのテストで明確な反応がなく、局所圧迫のみで疼痛が再現される場合は、鵞足炎の可能性を優先的に考えます。
臨床で迷いやすいケースへの対応
鵞足炎と半月板損傷が併存する場合
実臨床では、鵞足炎と半月板損傷が同時に存在するケースも珍しくありません。半月板損傷による動作回避や代償動作が、結果として鵞足部への負担を増やしていることもあります。
症状の主因を見極める視点
「どの症状が一番困っているのか」「どの動作で最も再現性が高いか」を整理し、主訴に直結する要因を優先的に評価します。
炎症所見が強く局所圧痛が明確であれば鵞足炎、機械的症状が主体であれば半月板を主因として考えます。
画像所見と臨床所見の付き合い方
MRIで半月板損傷が指摘されても、それが必ずしも疼痛の原因とは限りません。特に変性断裂は無症候性であることも多く、画像所見だけで判断することは危険です。
MRI所見をどう解釈するか
画像はあくまで補助情報と捉え、症状の再現性・動作との関連・触診所見を優先して統合的に判断することが重要です。
「写っているもの」と「痛みを出しているもの」は必ずしも一致しない、という視点を常に持つ必要があります。
まとめ
鵞足炎と半月板損傷を見分けるために重要な視点
鵞足炎と半月板損傷の鑑別には、解剖学的理解に加え、痛みの質、動作時の反応、触診・徒手検査の結果を統合する臨床推論が不可欠です。
局所だけを見るのではなく、「なぜその部位に負荷が集中しているのか」「動作の中で何が起きているのか」を丁寧に紐解くことで、鑑別精度は大きく向上します。
最後まで丁寧に評価し切る姿勢こそが、慢性化を防ぎ、再発しにくいリハビリテーションにつながります。
