目次
リハビリ介入の要点(急性期・回復期)
視床出血のリハビリでは、運動麻痺だけでなく 感覚障害・覚醒/注意の変動・高次脳機能障害 が訓練効率と安全性を大きく左右します。したがって「何ができるか」だけでなく、「なぜできないのか(感覚・覚醒・認知・進展方向)」を病態と結びつけて介入を組み立てることが重要です。
急性期(発症〜概ね1〜2週:全身安定化〜離床開始)
1) 急性期のゴール
- 二次障害の増悪を防ぎつつ早期離床(廃用・せん妄・誤嚥性肺炎・深部静脈血栓などの予防)
- 意識・神経症状の変動を見逃さない(血腫増大、浮腫、水頭症の兆候)
- 早期から 姿勢・感覚・注意 を整え、後の学習効率を下げない土台づくり
2) 急性期の評価(リハ開始時に必ず押さえる)
- 意識/覚醒:JCS/GCS、日内変動、刺激での反応性
- 神経学的所見:麻痺、感覚(表在/深部)、視野・眼球運動、失調/不随意運動
- 高次脳機能:注意、見当識、半側空間無視、病識、情動(易怒/抑うつ/感情失禁)
- 嚥下・呼吸:痰量、咳嗽、SpO₂、誤嚥兆候
- 画像/病態(把握しておくべき項目)
- 内包進展(麻痺重度化)
- 中脳進展(意識・眼球運動)
- 脳室穿破/水頭症(急変リスク)
- 循環動態:血圧管理目標、起立耐性、心拍・不整脈、起立性低血圧
3) 急性期の介入(優先順位)
A. リスク管理を前提に“離床の質”を作る
- ベッド上で 頭位・体幹アライメント を整える(頸部過伸展/回旋の固定を避ける)
- ポジショニング:肩甲帯・骨盤の支持、麻痺側上肢の保護(肩関節痛予防)
- 呼吸ケア:胸郭可動、排痰姿勢、軽い体位変換(呼吸仕事量を上げすぎない)
B. 覚醒・注意が低い人ほど“環境調整+短時間高頻度”
- 1回を短く、回数を増やす(5〜10分×複数回など)
- 声かけは単純化、刺激は絞る(「次に何をするか」だけを明確に)
- 覚醒が上がる姿勢(端座位など)を活用しつつ、過負荷は避ける
C. 感覚障害への対応(視床出血の核)
- “麻痺が軽いのに転ぶ/怖い/ぎこちない”の背景に 深部感覚低下 があることが多い
- 触覚・荷重・関節圧縮など 入力の質を揃える(雑な刺激は過緊張や恐怖につながる)
- 端座位・立位で 左右荷重差を見える化(ミラー、体重計、床マーキングなど)
D. 早期基本動作(安全最優先)
- 寝返り→起き上がり→端座位→立位準備へ段階化
- 端座位では 骨盤前後傾・体幹回旋 を小さく入れて「中枢を起こす」
- 立位は 支持面を広く、麻痺側へ“押し込ませる”より“乗れる姿勢”を作る
4) 急性期の中止・注意サイン(代表例)
- 意識レベルの急変、強い頭痛/嘔吐、瞳孔不同
- 血圧の急上昇/急降下、SpO₂低下、胸痛・強い息切れ
- 新規の神経症状(麻痺の増悪、構音悪化、注視障害の増悪)
→ 血腫増大、浮腫進行、水頭症 を疑い即共有
回復期(概ね2週以降:機能回復・ADL再獲得のフェーズ)
1) 回復期のゴール
- 感覚‐運動統合の再学習(“動ける”を“使える”に)
- 歩行と上肢使用の実用化(安全性・効率・疲労管理)
- 認知・注意・情動の問題を含めた 生活の再構築
2) 回復期の評価(介入設計に直結するところ)
- 感覚:深部感覚の残存、触覚/痛覚過敏(視床痛の兆候)、位置覚
- 運動:麻痺の質、協調性、失調、選択性、筋緊張(痙性より“コントロール不良”が前面のことも)
- バランス:静的/動的、予測的姿勢調整(APA)、方向転換・段差
- 認知/注意:二重課題で破綻しないか、疲労で崩れないか
- 疼痛:視床痛、肩手症候群、肩関節痛(早期から追跡)
3) 回復期の介入(視床出血で効果が出やすい考え方)
A. “感覚が足りないなら入力を設計する”
- 荷重・関節圧縮・床反力を使った入力(立位・片脚支持の質を上げる)
- ミラー、動画、触覚キューなど 外部フィードバック を段階的に減らす
- “見て動く”に偏りすぎると実生活で崩れるため、視覚依存を調整
B. 歩行:速度より「左右差」「方向転換」「環境適応」
- 直線歩行だけでなく、停止→開始、旋回、狭い場所、段差を早期から
- 深部感覚低下が強い例では、接地が曖昧になるため
- 接地位置の再現性
- 立脚中期の安定
- 体幹の過剰代償(側屈・回旋)
を優先して整える
C. 上肢:使用量を増やす(“機能訓練だけ”で終わらせない)
- 運動麻痺が軽くても、感覚障害で“使うのが怖い/雑になる”ことが多い
- 目的課題(整容、食事、更衣)に組み込み、失敗しにくい環境 を作る
- 肩の痛み予防:肩甲帯の位置、挙上代償、支持の仕方を徹底
D. 注意・情動の波を“訓練計画に組み込む”
- 疲労で急に成績が落ちることがある(特に内側視床系)
- ①短時間集中 → ②休憩 → ③再現性確認 のリズム
- 家族・スタッフに「声かけの型」「環境刺激の絞り方」を共有
4) 視床出血で特に注意したい合併・問題
- 視床痛(中枢性疼痛):触れると痛い、灼熱感、温冷感異常など
→ “筋骨格系疼痛と決めつけない”。刺激量を調整し、医師へ共有 - 感覚障害による転倒:できる動作ほど危ない(油断しやすい)
→ 生活場面でのリスク評価(夜間トイレ、方向転換、段差) - 水頭症・意識変動の遅発:回復期でも注意
→ 反応性低下、歩行の急な悪化、尿失禁増悪などは共有
まとめ(リハ視点)
視床出血のリハビリは、運動麻痺の回復だけでなく、感覚・覚醒/注意・認知情動を統合した“学習の設計”が鍵になります。
急性期は 安全な離床と二次障害予防、回復期は 感覚入力を整えた運動学習と生活課題への転移 を軸に、症状の変動を追いながら段階的に進めることが重要となります。
