腱板損傷は、肩関節の安定性と巧緻性を支える「棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋」からなる腱板が、加齢性変化・過負荷・姿勢不良など複数の因子によって損傷することで発症します。表面的には「肩が痛い」という症状だけに見えますが、その背景には筋骨格系・神経系・姿勢制御・スポーツバイオメカニクスなど、さまざまな要素が密接に絡み合っています。本記事では腱板損傷になりやすい人の特徴を、臨床的観点と機能解剖学的観点から深く掘り下げて解説します。
年齢・加齢性変化が背景にあるケース
中高年層でリスクが高い理由
加齢が進むと腱板は血流が低下し、細胞外マトリックス(コラーゲン繊維)の配列が乱れ、微小損傷が蓄積しやすくなります。特に棘上筋腱の「critical zone」は血管が少なく、40歳以降から急激に変性が進みやすい領域です。
症状・特徴
日常的な挙上動作で痛みが出る、夜間痛で眠れない、肩が抜けるような不安定感などが典型です。痛みは徐々に悪化する傾向があり、動作の最終域での鋭い痛みや、特定角度での引っかかり感を訴える人が多いです。
背景となる要因
腱組織の退行変性は自然経過として徐々に進みますが、「繰り返しの微細損傷」が重なることで断裂へ移行します。加齢に伴う筋量低下(サルコペニア)も肩甲帯の安定性に影響し、腱板への過度な負担を生み出します。さらに肩峰の形状(Ⅱ型・Ⅲ型肩峰)も関与し、構造的に腱板が擦れやすい場合はリスクが上昇します。
臨床での注意点
中高年の肩痛では腱板損傷が非常に多く、安易に「肩こり」と誤認されるケースもあります。疼痛誘発テスト(Jobe test、Hawkins-Kennedy test)、抵抗外旋テスト、下垂位外旋筋力などを丁寧に評価し、可動域制限や筋力低下の有無を確認することが重要です。
反復動作・使いすぎが背景にある場合
日常生活や仕事で肩を酷使する人は、腱板の摩耗と微小損傷が急速に蓄積しやすくなります。
症状・特徴
肩を上げたり物を持ち上げたりするときに痛みが再現されやすく、同じ動作を繰り返すほど痛みが強くなる傾向があります。動作後の鈍痛や重だるさ、翌日の疲労感も特徴的です。
原因・背景
挙上・回旋の反復動作により、腱板の腱線維に“マイクロダメージ”が繰り返し蓄積します。とくに肩関節は広い可動域を持つ一方で、安定性は筋の働きに依存しているため、使いすぎは腱板の脆弱化を進行させます。後方関節包の硬さや肩甲骨の下方回旋も腱板へのストレスを増加させます。
予防・ケア
肩甲帯の安定化エクササイズ(下部僧帽筋・前鋸筋)、ローテーターカフの持久力向上、胸椎伸展可動性の確保が重要です。仕事動作では、「肩を挙上しながらの反復作業」「荷物を片側だけで運ぶ動作」を改善することで負担を軽減できます。
スポーツ動作による腱板損傷
投球動作を行う競技者
野球の投手・外野手、ハンドボール、やり投げなど、強い外旋・急激な減速を伴う競技は腱板損傷の頻度が高いグループです。
症状・特徴
コッキング〜加速期に鋭い痛みが走る、リリース後にだるさが残る、球速低下、投げた後の後方肩の張りなどが典型です。可動域は一見正常でも、肩後方のタイトネスや筋力低下が隠れていることが多いです。
発生メカニズム
投球動作では肩に体重の120%以上の剪断力、ピーク外旋角170°以上という極端な負荷がかかります。これにより後方関節包の硬化→関節中心の偏位→インピンジメントの進行→腱板損傷、というメカニズムが成立します。減速期では棘下筋・小円筋に爆発的な負荷がかかり、疲労が蓄積しやすいのも特徴です。
予防と介入
肩だけでなく体幹・股関節の連動性改善が必須で、胸郭の回旋不足や骨盤の開き遅れは腱板負荷を増加させます。投球フォーム分析を行い、フォロースルーでの肩の引き込みや体幹の安定性も修正する必要があります。
水泳・バレーボールなどオーバーヘッドスポーツ
挙上・内旋の反復による摩耗が腱板に大きなストレスを与えます。
症状・特徴
水泳ではキャッチ・プルの局面での痛み、バレーボールではスパイクの振り下ろし時やブロック動作の後に痛みが出ることが多いです。可動域制限よりも、肩甲骨の動きの不良や筋バランスの乱れが目立ちます。
背景となる力学的要因
肩峰下スペースが狭くなりやすい姿勢や動作(猫背、肩甲骨前傾・下方回旋)により、棘上筋腱が肩峰に挟まれやすくなります。胸椎伸展制限があると、肩の挙上角度を代償するため腱板への負荷がさらに増大します。
改善ポイント
胸椎可動性改善エクササイズ、肩甲骨の外旋・上方回旋の促進、前鋸筋・下部僧帽筋のトレーニングが有効です。水泳では入水角度の改善、バレーボールでは腕の引き上げ軌道の改善がパフォーマンスと同時に腱板保護になります。
姿勢・身体機能が影響するタイプ
巻き肩・猫背姿勢の人
姿勢不良は腱板損傷の大きなリスク因子です。特に胸椎後弯が強く、肩甲骨が前傾・下方回旋している状態では、肩峰下スペースが狭まり腱板が摩耗しやすくなります。
症状・特徴
肩を120°以上挙上したときの痛み、着替え動作での引っかかり、顔を洗う動作での痛み、夜間寝返り時の痛みが典型的です。肩甲骨の動きを見ると、上方回旋が不足し、代わりに挙上過多が見られる場合もあります。
姿勢が影響する理由
巻き肩は肩甲骨の外転・前傾を招き、棘上筋腱が肩峰の下面に接触しやすい状態をつくります。胸郭の柔軟性低下や腹部の緊張も肩甲帯の動きに影響し、腱板の働きを阻害します。さらにデスクワークの長時間化により、頸部伸展・肩甲骨前方移動が習慣化すると、腱板へのストレスが持続的に加わります。
臨床介入ポイント
胸椎伸展モビライゼーション、肩甲骨リトラクション・後傾のトレーニング、耳〜肩〜骨盤を整える姿勢再教育などが有効です。呼吸介入により胸郭の柔軟性を引き出すと肩甲帯の動きも改善します。
まとめ
腱板損傷は「年齢」「使いすぎ」「スポーツ特性」「姿勢・身体機能」など多くの要素が複合的に絡み合って発症します。同じ“肩の痛み”でも背景にある原因は大きく異なるため、臨床では動作分析・姿勢評価・筋力テスト・生活習慣の把握など、全体像を丁寧に捉える必要があります。リスク因子を理解することで、損傷予防や早期介入が可能になり、患者の生活の質やスポーツパフォーマンスを大きく改善することができます。
