はじめに:なぜ小脳出血は“怖い”のか
脳卒中リハビリの現場では、どうしても「片麻痺=被殻出血」というイメージが強くなりがちです。しかし、小脳出血は麻痺が目立たなくても、病態が急変しやすい“ハイリスクな出血”として理解しておく必要があります。
小脳は後頭蓋窩という“狭いスペース”にあり、すぐ隣に脳幹と第四脳室が存在します。そのため、血腫拡大や浮腫が少し進むだけで、意識障害や急性水頭症が生じやすいのが最大の特徴です。
本記事では、
- なぜ小脳に出血が起こるのか
- なぜ症状が急変しやすいのか
- どのように重症度と予後を読むのか
を、リハビリ臨床で使える視点に整理します。
小脳出血とは何か
小脳出血は、小脳半球または虫部に生じる脳内出血で、主に高血圧性脳出血として発症します。
被殻出血が「麻痺優位」の病態であるのに対し、
👉 小脳出血は「失調+意識障害リスク」が前景に立つ出血です。
臨床的には次の3つが問題になります。
- 体幹失調・歩行障害(小脳機能障害)
- 脳幹圧迫による意識障害
- 第四脳室閉塞による急性水頭症
この3つが重なるほど、急性期の管理と離床は慎重になります。
なぜ小脳に出血が起こるのか(発生機序)
小脳には、上小脳動脈(SCA)、前下小脳動脈(AICA)、後下小脳動脈(PICA)という血管から細い枝が入り、栄養を送っています。
小脳出血が特に危険視される理由は、次の2つの条件にあります。長年の高血圧があると、これらの細い血管の壁がもろくなり、ある日突然破れてしまい脳内出血を起こします。これは典型的な高血圧性脳出血のメカニズムです。
臨床的に重要なのは次の2点です。
- 後頭蓋窩の出血であること
- 脳幹・第四脳室に極めて近いこと
この解剖学的条件が、小脳出血の“急変リスク”を高めています。
一次損傷と二次損傷で考える
小脳出血も、他の脳内出血と同じ枠組みで整理できます。
一次損傷
- 血腫そのものによる小脳実質の破壊・圧迫
二次損傷
- 血腫拡大
- 小脳周囲の浮腫
- 第四脳室閉塞 → 急性水頭症
- 脳幹圧迫 → 意識障害の悪化
急性期のリハで最も重要なのは、
「今の失調」だけを見るのではなく、「これから悪化し得る病態」を前提に評価すること
です。
特に、
- 頭痛の増悪
- 嘔気・嘔吐
- 意識レベルの低下
は二次損傷のサインとして要注意です。
画像で何を読むか(進展方向・脳室穿破・血腫量)
① 進展方向:内側か外側かが分かれ目
- 外側進展(小脳半球外側)
- 比較的局所的な失調が主体
- 意識障害は軽度のことが多い
- 内側進展(虫部〜第四脳室方向)
- 第四脳室閉塞を起こしやすい
- 急性水頭症リスクが高い
- 意識障害が出やすい
臨床では「血腫がどちら側に向かっているか」が、離床リスクの判断材料になります。
② 脳室穿破(IVH)
脳室穿破を伴う場合、
- 意識障害が悪化しやすい
- 水頭症のリスクが上がる
- 離床のタイミングが遅れる
ため、より慎重な段階づけが必要です。
③ 血腫量
小脳出血では血腫量が治療方針(保存 vs 手術)に大きく関わります。
実務的には、血腫量 × 意識レベル × 脳幹圧迫の有無
をセットで判断します。単に「何mL以上が危険」と決めつけないことが大切です。
小脳出血の主要症状
体幹失調(最も典型的)
- 立位のふらつき
- 広基底歩行(wide-based gait)
- 方向転換での不安定性
重症例では、歩行以前に座位保持が難しいこともあります。
眼球運動障害
- 注視方向性眼振
- 複視
- めまい・回転性眩暈
離床時に増悪しやすく、転倒リスクと直結します。
構音・嚥下障害
- 小脳性構音障害(スキャンニングスピーチ)
- 嚥下障害(脳幹圧迫が関与すると重症化)
意識状態によって嚥下評価の優先度が変わります。
意識障害
被殻出血と違い、小脳出血では意識レベルの変化そのものが予後に直結します。
- 意識低下
- 頭痛・嘔吐
- 水頭症
がそろった場合は要注意です。
重症度の見方(臨床でのポイント)
意識レベル
GCS/JCSで評価し、経時変化を必ず追う。
悪化は二次損傷のサインです。
神経所見
- 体幹失調
- 眼球運動
- 構音
を系統立てて評価します。
画像
急性期はCTが第一選択。
必要に応じてMRIで脳幹圧迫や浮腫を確認します。
リハビリ介入の考え方
急性期:目標は「悪化させない+安全に離床」
離床前後で必ず確認する項目:
- 意識レベル
- 頭痛
- 嘔気
- 血圧・脈拍
変化があれば、運動学習の問題ではなく病態変化を疑うのが鉄則です。
回復期:目標は「体幹制御+歩行の再構築」
介入の柱は3つ。
- 体幹支持の再学習
- 視覚・前庭・体性感覚の統合
- 環境調整を含めた歩行練習
小脳出血では筋力トレーニングよりも、
👉 姿勢制御と協調性の再獲得が最重要です。
まとめ(臨床の要点)
小脳出血は、
- 麻痺は軽いことがある
- しかし意識障害・水頭症・失調が予後を左右する
という出血です。
評価は、発生機序(深部小血管) → 病態(一次/二次損傷) → 重症度(意識・神経所見・画像)
で整理すると、急性期のリスク管理から回復期の介入設計まで一貫します。
