アキレス腱は、人間の動作において最も重要な役割を担う腱の一つです。ふくらはぎの筋肉と踵の骨を繋ぐこの腱は、歩行や走行、ジャンプといった日常的な運動の中で絶え間なく負荷を受けています。しかし、激しい運動や過度なストレスが繰り返し加わると、アキレス腱は損傷し、炎症を引き起こすことがあります。特にスポーツ選手やランニングを趣味とする人に多く見られるこの「アキレス腱炎」は、慢性的な痛みや機能障害を伴う厄介な疾患です。この記事では、アキレス腱炎に関する発生のメカニズムから治療、予防、そして再発防止までを解説します。
アキレス腱炎とは
アキレス腱炎の定義
アキレス腱炎とは、アキレス腱に繰り返される過度のストレスや使用過多が原因で引き起こされる炎症性疾患です。この腱は人体の中で最も大きく、強度も高いとされていますが、それでも長期間にわたって酷使されると、小さな損傷が蓄積し、やがて炎症を引き起こすことがあります。特に、アキレス腱の下部1~2cmの部位は血流が少なく、自己修復の能力が低いため、損傷が蓄積しやすい箇所です。未治療のアキレス腱炎は、腱断裂や慢性的な運動障害を引き起こすリスクがあり、早期の治療と適切な管理が不可欠です。
アキレス腱炎の発生メカニズム
アキレス腱炎は、急激な運動負荷や不適切なトレーニングにより発症します。アキレス腱が通常の範囲を超えるストレスにさらされると、腱の繊維に微小な損傷が生じ、これが炎症を引き起こすメカニズムとなります。 例えば、急に走行距離を増やしたり、硬い路面でのランニングなどが該当します。腱が損傷すると、その部位で炎症が生じ、腫れ、痛み、硬直感などの症状が現れます。さらに、損傷が回復しない状態で運動を続けると、慢性化して治療が難しくなることがあります。加えて、足のアライメント不良(足の過剰な回内など)が腱への負荷を増加させ、炎症を悪化させる要因にもなります。
主な症状と診断
症状
アキレス腱炎の代表的な症状は、アキレス腱周囲の痛みと硬直です。特に朝起床時や運動を開始する前後に症状が強く現れることが多く、最初は動作を開始することで痛みが和らぐことがあります。しかし、症状が進行すると、運動中だけでなく、安静時にも痛みが持続し、歩行や立ち上がる際に支障をきたすこともあります。その他にも、腱が太くなり腫れる、アキレス腱を押すと強い圧痛を感じる、腱が硬くなるといった症状が現れる場合もあります。
診断方法
身体検査
診断にはまず、患者の詳細な運動歴と痛みの部位や経過を確認します。医師はアキレス腱を直接押してみたり、動かした際の痛みの有無を確認します。また、アキレス腱を伸ばすテストや、ふくらはぎの筋肉を使ったテストを行い、痛みの度合いや機能障害の程度を評価します。視覚的な腫れや腱の硬直感も診断の一助となります。
画像診断
慢性化した場合や、腱の損傷の範囲を確認するために、エコー検査(超音波検査)やMRIを使用します。エコー検査では、腱の炎症状態や腫れをリアルタイムで確認でき、腱断裂の有無も判断することができます。MRIはより詳細な組織損傷を把握できるため、保存療法の効果が不十分な場合に用いられることが多いです。
原因とリスク因子
原因
アキレス腱炎の主な原因として、過度な運動負荷や不適切なトレーニングが挙げられます。特に、スポーツ選手やランニングを日課とする人々は、アキレス腱に過剰な負荷をかけやすいです。また、急激に運動量を増やしたり、休養を取らずにトレーニングを続けることも原因となります。例えば、準備不足のままマラソンに挑戦したり、硬い路面でのランニングはアキレス腱に過剰なストレスをかけ、炎症を引き起こす可能性があります。
リスク因子
アキレス腱炎のリスク因子としては、年齢、性別、アライメントの不良などが挙げられます。加齢により腱の柔軟性が低下し、修復能力が衰えるため、中高年層の男性に多く発症します。また、扁平足や足の過剰な回内(プロネーション)は腱に過度な負荷をかけ、炎症を引き起こしやすくなります。さらに、ランニングシューズが適切でない場合や、古くなったシューズを使用し続けることもリスクを高めます。
予防方法
ストレッチと筋力トレーニング
予防には、日常的なふくらはぎやアキレス腱のストレッチが最も効果的です。運動前のウォームアップや、運動後のクールダウン時に、しっかりとしたストレッチを行うことで、腱の柔軟性を高め、過度な負荷を防ぐことができます。さらに、ふくらはぎの筋力を強化するトレーニング(カーフレイズなど)は、腱への負担を軽減し、損傷のリスクを低減します。これらの予防策を取り入れることで、アキレス腱炎を未然に防ぐことが可能です。
正しいシューズの選び方
適切なシューズ選びも、アキレス腱炎の予防において非常に重要です。踵部がしっかりとサポートされ、足のアライメントを矯正できるランニングシューズを選ぶことが推奨されます。さらに、クッション性に優れたシューズを選ぶことで、硬い路面でのランニングによる衝撃を緩和し、腱にかかる負担を軽減できます。また、定期的にシューズを交換し、すり減ったシューズを使用しないことも大切です。
治療法
保存療法
休息とアイシング
アキレス腱炎が発症した場合、最も重要なのは腱への負担を減らすための休息です。腱が十分に回復するまで、運動を控えることが推奨されます。また、アイシングは炎症を抑えるために有効です。運動後や痛みが強化したときには、20分程度のアイシングを1日に数回行うことが推奨されます。これにより、腱の炎症を抑え、痛みを軽減する効果が期待できます。また、アイシングと休息を組み合わせて行うことで、腱の回復が促進され、再び運動を行う際のリスクを最小限に抑える**ことができます。
ストレッチとリハビリ
保存療法の一環として、適切なストレッチやリハビリを行うことが重要です。アキレス腱がある程度回復した段階で、ふくらはぎのストレッチを行い、腱の柔軟性を高めることが必要です。また、段階的に負荷を増やす筋力トレーニングもリハビリには不可欠です。エキセントリック運動(ゆっくりと筋肉を伸ばしながら行う動作)は、特にアキレス腱の回復に効果的とされています。これにより、腱の強度を高め、再発防止につながります。
手術療法
保存療法が効果を示さず、症状が改善しない場合には、手術療法が検討されます。手術では、アキレス腱の損傷部分を修復し、炎症を引き起こしている瘢痕組織を除去することが主な目的です。手術後は、リハビリが非常に重要であり、段階的に運動を再開しながら、腱の回復状況を慎重に見極める必要があります。術後のリハビリ期間は数ヶ月に及ぶことがあり、適切なリハビリ計画が不可欠です。
アキレス腱炎の回復期間と再発防止
回復の目安
アキレス腱炎の回復期間は、炎症の程度や治療法、個人の体力によって大きく異なります。軽度な炎症の場合、数週間の休息とストレッチで回復が見込まれますが、重度の炎症や腱の損傷がある場合、回復には数ヶ月を要することがあります。また、手術が必要なケースでは、術後6ヶ月以上のリハビリ期間を見込むこともあります。重要なのは、無理をせず、段階的に運動を再開することです。早期に運動を再開すると、症状が再発するリスクが高まるため、医師や理学療法士の指導のもとで慎重に進める必要があります。
再発防止のための生活習慣
アキレス腱炎を再発させないためには、日常的なストレッチや筋力トレーニングを欠かさず行うことが重要です。ふくらはぎやアキレス腱を定期的にストレッチし、柔軟性を保つことが、再発防止の大きな鍵となります。また、適切なシューズを選び、シューズがすり減った際にはすぐに交換する習慣を持つことも再発防止に効果的です。さらに、ウォーミングアップやクールダウンを怠らず、運動負荷を段階的に増やすことが重要です。
まとめ
アキレス腱炎は、運動の負荷が原因で発生する痛みと機能障害を伴う疾患ですが、正しい予防と治療を行うことで回復し、再発を防ぐことができます。運動前後のストレッチや筋力トレーニングの重要性を理解し、日常的にケアを行うことで、アキレス腱炎のリスクを大幅に軽減することができます。再発防止には、シューズの選び方や運動習慣の見直しが不可欠であり、これらのポイントを押さえた健康的な生活を送ることで、長期的にアキレス腱を保護することができます。
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