すくみ足(Freezing of Gait:FOG)は、歩行が「したいのに出ない」「突然止まる」「足が床に貼り付いたように感じる」といった現象で、主にパーキンソン病や関連疾患で問題になります。臨床上の重要性は、症状そのものよりも“転倒”“外出回避”“活動量低下”“自信喪失”へ直結し、生活の質を大きく損なう点にあります。
一方で、すくみ足は筋力や柔軟性不足だけで説明できるものではありません。運動の自動化(無意識で滑らかに続く仕組み)、姿勢制御(重心を前へ移す準備)、注意資源(同時に処理できる量)、感覚統合(視覚・体性感覚・前庭の統合)、心理(焦り・不安)などが絡み合い、特定の場面で破綻として表面化します。
本記事では、すくみ足を「場面(いつ起こるか)」「仕組み(なぜ起こるか)」「評価(何を見ればよいか)」「対策(どう切り替えるか)」「介入設計(どう練習で再現性を作るか)」の順で整理します。大切なのは、単発のテクニック集ではなく、“自分(または担当患者)に合う対策を選び、成功しやすい型として固定する”ことです。読後に、現場で説明でき、家庭でも実行でき、そして再現性が上がる設計図を持ち帰れる構成にしています。
すくみ足とは何か:定義と臨床的な位置づけ
すくみ足は、歩行開始や歩行中に、意図しているにもかかわらず足が前へ出なくなる一過性の運動停止(あるいは停止に近い状態)です。単なる「歩けない」ではなく、「出力する準備はあるのに、運動の開始・切り替えのスイッチが入らない」ことが中核にあります。
臨床では、すくみ足は転倒の直接原因になるだけでなく、転倒経験をきっかけに“恐怖→回避→活動低下→筋力低下→さらに不安定→さらにFOG”という悪循環に入りやすいのが問題です。したがって、評価は歩容だけで完結せず、生活場面、心理、環境、薬の効き具合、疲労や睡眠まで含めた総合的な見立てが欠かせません。
すくみ足の代表的な現れ方(開始困難・すり足・方向転換での停止)
代表的なパターンは、①歩き始めの一歩目が出ない(開始困難型)、②歩行中に急に止まる(停止型)、③方向転換で止まる(旋回型)、④狭い場所やドア前で止まる(狭所型)です。
ただし臨床では「完全に止まる」だけではなく、歩幅が極端に短くなり、ピッチだけ上がって前に進めない“すり足・小刻み化”として現れることも多いです。本人は止まっていないつもりでも、実際は進行速度が急落しており、転倒リスクとしては同等かそれ以上になることがあります。
また、すくみ足には可変性があります。薬が効いている時間帯(オン)では出にくく、切れかけ(オフ)や疲労時に出やすい場合もあれば、薬効とは独立して「特定の場面」だけで出る場合もあります。この“場面依存性”こそが、対策を設計できる最大のヒントです。
「止まる」だけではない:小刻み化・前傾・姿勢崩れとの関連
すくみ足は「止まった瞬間」だけを見ても不十分で、直前の歩行の変化を捉えることが極めて重要です。よく見られる前兆として、歩幅の短縮、ピッチの増加、足のクリアランス低下、体幹前傾の増大、腕振りの減少、視線の固定(下を見て固まる)などがあります。
これらは偶然ではなく、姿勢制御の破綻と連動します。歩き始めや方向転換には、重心を次の支持脚へ移すための予測的姿勢調整(APA)が必要です。しかし、APAが小さくなると「一歩目のための重心移動」が起こりにくくなり、結果として足が出ません。足が出ないと、さらに小刻み化して“とにかく足を動かそう”とするため、ますます重心移動が伴わず、悪循環が強化されます。
臨床上のポイントは、すくみ足を「止まったら対処」ではなく、「止まる前に切り替える」現象として扱うことです。前兆が出た時点で、外部キューや足運びのルールに切り替える設計が、実用性を高めます。
すくみ足が起こりやすい場面と誘因(トリガー)
すくみ足は、歩行に伴う処理が“増える瞬間”で出やすい傾向があります。処理とは、速度や筋力ではなく、空間の判断、方向転換、他者回避、時間制約、二重課題などを含みます。さらに、過去の転倒経験があると「止まったらどうしよう」という不安が先行し、身体が硬くなることでさらに生じやすくなります。
このため、対策の第一歩は「すくみ足を起こすトリガーを言語化する」ことです。トリガーがはっきりすると、練習も環境調整も“狙って”でき、成功体験が増えます。
狭い場所・ドア前・人混み・横断歩道など環境要因の特徴
狭い場所やドア前で起こりやすい理由は、単に幅が狭いからではありません。通過には「速度調整」「足運びの精度」「進路の微調整」「衝突回避」「敷居や段差への注意」など複数の要素が同時に必要です。ドア前は“止まる→進む”の切り替えが発生し、さらに人が出入りすれば予測が難しくなります。
人混みや横断歩道は「時間圧」「他者の視線」「避ける判断」「不規則な刺激」が加わるため、注意資源が奪われやすい状況です。結果として歩行の自動化が崩れ、意図的制御で補おうとしますが、補いきれずFOGが表面化します。
ここでの実践的な視点は、“環境の難しさは減らせる”ということです。例えば、横断歩道の直前で一度立ち止まって呼吸を整え、進む前にリズムを作るだけでも成功率が上がる人は多いです。環境要因は、行動手順(儀式化)で上書きできます。
二重課題(会話・荷物・注意分散)と心理的要因(焦り・不安)
二重課題は、すくみ足の頻度を増やす典型的な因子です。会話しながら、物を持ちながら、周囲を探しながら歩くと、歩行の制御に割ける注意が減ります。自動化が低下している状態では、歩行そのものに注意が必要になっているため、二重課題で破綻しやすいのです。
さらに、焦りや不安が加わると“早く動かそう”という思考が先行し、呼吸が浅くなり、体幹や股関節周りの緊張が上がります。この硬さ(共収縮)は重心移動を妨げ、APAを小さくし、結果的に足が出にくくなります。
重要なのは、心理的因子を精神論で片付けないことです。焦りは運動出力の質を落とす「実際の負荷」です。対策は、気合いではなく、呼吸・間合い・手順化(止まっていい設計)で対応します。
すくみ足が起こる仕組み:運動制御の観点から
すくみ足は、歩行という反復運動が、状況に応じて「開始・継続・停止・切り替え」を行う過程で、運動プログラムの選択と切り替えがうまくいかなくなる現象です。神経系の観点では、基底核回路による自動化、前頭前野による注意・遂行機能、小脳や脳幹によるタイミング制御、感覚統合、姿勢制御が関与します。
したがって、同じFOGでも、主因が「リズム生成の弱さ」なのか、「姿勢準備の不足」なのか、「注意の固着」なのか、「環境刺激への過敏性」なのかで、効く対策が変わります。ここを見誤ると、練習量だけ増えても成果が出にくくなります。
基底核回路と「自動運動」の破綻
歩行は本来、意識的に細部を考えなくても流れる自動運動です。基底核は、運動の選択・開始・切り替えに関与し、ドパミン機能の低下などでこの機能が弱くなると、運動の開始ゲートが上がりにくくなります。すると、環境の変化(狭所、旋回、停止再開)が入った瞬間に、運動プログラムが“選べない/切り替えられない”状態になり、すくみが生じます。
さらに、自動化が弱くなるほど前頭前野で補う必要が増え、注意資源が枯渇しやすくなります。つまり、FOGは「運動そのもの」だけでなく「注意の容量」とセットで悪化しうる現象です。
内部生成リズムの低下と運動開始ゲートの障害
開始困難型のFOGは、内部のリズム(テンポ)を作る力が弱まり、開始のタイミングが定まらないことが関与します。加えて、開始許可(ゲート)が上がらないと、足を出すための筋活動が断片化し、結果として“足踏みのように空回りする”状態になります。
このタイプでは、外部キュー(メトロノーム、手拍子、数える、床のライン)で改善しやすいことが多いです。外部キューは、内部のタイミング生成を肩代わりし、開始の合図を明確化する役割を持ちます。ポイントは「何となく歩く」ではなく、「合図→重心移動→一歩目」と、手順を具体化することです。
ドパミン機能とタイミング制御の関係
ドパミンは運動の滑らかさだけでなく、タイミングの調整や運動切り替えにも関与します。そのため、薬効の波(オン・オフ)により、FOGの出やすさが変動するケースがあります。ただし、FOGは薬で改善しやすい場合と、逆に薬効が強い時でも残る場合があり、必ずしも単純ではありません。
臨床的には、薬効の影響が強いかどうかを見分けるために、いつ(時間帯)、どこで(場面)、どの強さで(頻度・持続)、どう出るか(開始・旋回・狭所)を記録し、パターン化することが重要です。ここができると、医師への情報提供も具体的になり、薬剤調整の精度も上がります。
姿勢制御・歩行周期の崩れが連鎖するメカニズム
すくみ足は「足の問題」と見えやすいですが、実際には姿勢制御の比重が非常に大きいです。足が出るためには、重心を前方・支持脚側へ移し、次の遊脚を振り出す余裕を作る必要があります。ここが小さくなると、足だけ動かしても前へ進まず、むしろ小刻み化して停止しやすくなります。
また、歩幅が短くなると、歩行の周期は「小さく速い」方向へシフトし、リズムが乱れやすくなります。するとさらに不安定になり、注意を歩行へ向けざるを得ず、二重課題で破綻しやすくなります。
予測的姿勢調整(APA)の遅れと重心移動不足
歩き始めや方向転換の前には、身体は無意識に“次の動きに備える姿勢の準備”を行います。これが予測的姿勢調整(APA)です。APAが小さい・遅いと、重心が十分に移動せず、一歩目に必要な支持性が確保できません。その結果、足を出したくても出せず、その場で足踏みのような状態になりやすくなります。
介入では、APAを「大きくする」「明確にする」ことが狙いになります。具体的には、足幅を少し広げる、骨盤を前へ運ぶ意識を入れる、視線を前へ置く、片脚荷重の準備動作を入れるなど、“足を出す前の準備”を練習します。
ステップ長短縮→ピッチ増加→停止の悪循環
歩幅が短くなると、前に進むために歩数(ピッチ)を増やそうとします。しかし、歩幅が短いままピッチだけ上がると、重心移動がますます小さくなり、地面を“刻む”だけになりやすいです。すると、足の振り出しが不十分になり、停止へ至る確率が上がります。
この悪循環を断ち切るには、「大きく一歩」を取り戻す必要がありますが、いきなり大股は危険な場合もあります。実用的には、床の目標(ライン・タイル目地・テープ)を使い、目標へ足を運ぶことで歩幅を外部化し、成功率を上げます。身体感覚だけに頼ると失敗しやすい人ほど、視覚目標が有効です。
感覚情報処理と注意資源の偏り
すくみ足では、感覚情報の統合が不安定になりやすいと考えられています。視覚への依存が高まったり、逆に視覚情報が多すぎると処理が追いつかなかったりします。また、注意が一点に固着して切り替えられない状態もFOGの一因になります。
臨床的には「狭所で床を見て固まる」「人混みで視線が定まらず止まる」「回る時に視線が先行しない」などがヒントになります。感覚統合と注意の問題を見逃すと、筋力トレーニングだけで解決しようとしてしまい、遠回りになります。
視覚・前庭・体性感覚の統合不全と足底入力の変化
歩行には、視覚(空間と目標)、前庭(頭部・身体の傾き)、体性感覚(足底・関節位置感覚)の統合が必要です。すくみ足がある人では、足底入力の活用が弱くなり、視覚に頼りすぎる傾向が出ることがあります。その結果、視覚情報が複雑になると処理が破綻し、運動が止まりやすくなります。
介入としては、足底の入力を高める工夫(ゆっくり荷重練習、足底を感じる立位課題、支持脚への意識付け)、視覚の使い方を整える工夫(視線を少し先へ、目標を一つに絞る)が有効です。特に「床を見すぎる」人は、視線が下がることで体幹前傾が増し、さらにAPAが小さくなる点に注意が必要です。
注意の「固着」と外部刺激への過敏性
FOGでは注意が“切り替わらない”状態がみられます。狭所で「ここを通らなきゃ」と意識が固着すると、身体が硬くなり、動作の自由度が下がります。また、人混みや騒音など外部刺激が多いと、注意が散って運動制御に割ける資源が減ります。
対策の基本は、注意を「一つの合図」に集約することです。例えば「1、2、1、2」と数える、メトロノームに合わせる、床のラインを跨ぐ、足を“目標に置く”など、注意の焦点を単純化します。複雑なセルフ指示(姿勢、腕、足、呼吸…)を同時に入れるほど、逆に固まる人もいるため、最小限の合図に絞る設計が実用的です。
すくみ足の評価:原因を見立てるための整理法
すくみ足の対策は「効いたかどうか」が生活で問われます。そのため評価は、検査室や廊下だけで終わらせず、“いつ・どこで・何をしている時に・何秒止まるか”を具体的に記録し、再現条件を作ることが重要です。
評価の要点は、①FOGのタイプ(場面)②前兆の有無③姿勢制御の特徴④注意・感覚の偏り⑤薬効・疲労・睡眠・不安といった背景因子、を体系的に整理することです。ここが整うと、対策が「なんとなく」ではなく「仮説→介入→検証」になります。
すくみ足のタイプ分類(開始型・旋回型・狭所型など)
まずは、どの場面で止まるかを分類します。開始型が強いのか、旋回で止まるのか、狭所通過で止まるのか、あるいは二重課題で増えるのか。タイプが違えば、必要な戦略も異なります。
開始型が主なら「合図→重心移動→一歩目」の設計、旋回型が主なら「分割ターン」「視線先行」「大きく回る」設計、狭所型なら「ライン」「目標」「通過儀式」設計、二重課題型なら「負荷の段階付け」が中心になります。
どの場面で起きるかを時系列で記録するポイント
記録は、主観だけでなく“時系列”で整理すると精度が上がります。例えば「玄関で靴を履く→立ち上がる→一歩目→廊下→ドア前→方向転換」といった流れの中で、どこで前兆が出て、どこで止まるかを書きます。
加えて「止まる直前に何を考えたか」「周囲に人がいたか」「急いでいたか」「荷物はあったか」「床は滑りやすいか」「照明は暗いか」なども、トリガーの抽出に役立ちます。ここまで記録できると、介入のターゲットが明確になります。
観察で見るべき所見:歩容・姿勢・上肢・視線
観察は“足だけ”に注目すると誤りやすいです。体幹の前傾、骨盤の回旋、股関節伸展不足、上肢の固定、視線の使い方など、全身の協調性を見ます。
特にすくみ足は、歩行速度が落ちた時に「歩幅」「ピッチ」「支持脚への乗り込み」「遊脚の振り出し」「腕振り」がどう変化するかが重要です。止まる瞬間より、止まる“過程”に介入点が潜みます。
ステップ長・左右差・足尖方向・体幹回旋のチェック
ステップ長が短いだけなのか、左右差が大きいのか、足尖が内外に向きすぎていないか、体幹回旋が減っていないかを見ます。左右差が大きい場合、支持脚への荷重が不十分になりやすく、APAの問題が強い可能性があります。
また、足尖が外へ開きすぎると、方向転換や狭所での進路調整が難しくなります。体幹回旋が減ると、方向転換が“足だけ”になり、分割ターンができずに止まりやすくなることがあります。
すくみ直前のサイン(減速・小刻み化・視線固定)
すくみ直前のサインを見つけられると、対策を「早めに」入れられます。減速、小刻み化、つま先が引っかかる感じ、腕が止まる、視線が床に固定される、呼吸が止まる、などが代表的です。
この“前兆検出”は本人教育としても重要で、「止まったら対策」ではなく「止まりそうになったら対策」に変えることで、転倒を大きく減らせる可能性があります。臨床では、前兆を言語化して本人と共有し、合図をセットにするのが効果的です。
背景因子の抽出:薬効・疲労・睡眠・不安・環境
背景因子は、同じ環境でも症状が変動する理由を説明します。すくみ足は神経学的現象であるため、疲労、睡眠不足、ストレス、便秘、痛み、低血圧などでも悪化し得ます。また、家の中では出にくいが外では出やすい、という場合は環境刺激や心理的負荷が大きい可能性があります。
背景因子が分かると、「今日は出やすい日だから、外出時は必ずキューを使う」「疲れている日は旋回を減らす」などの予防的戦略を組み立てられます。
オン・オフと日内変動の把握
薬効が関与するかどうかは、日内変動を記録するのが実用的です。例えば「朝は開始で止まりやすい」「昼は安定」「夕方は旋回で止まる」など、時間帯と症状の型を対応づけます。
ここで大切なのは、単に“良い・悪い”ではなく、どの場面でどう出るかをセットで記録することです。医師へ伝える情報としても価値が高く、薬剤調整や生活指導の精度が上がります。
転倒歴と回避行動が与える影響
転倒歴があると、歩行そのものが“危険な行為”として学習され、慎重さが増します。慎重さは一見良いことですが、過剰になると歩幅がさらに短くなり、視線が下がり、身体が硬くなり、FOGを誘発しやすくなります。
また、「怖い場面を避ける」回避行動が増えると、経験学習の機会が減り、成功体験が積めずに不安が固定されます。対策は、避けるだけでなく、“安全に成功できる段階”を作って経験を積むことです。ここにリハビリの設計価値があります。
対策の考え方:再現性のある「切り替え戦略」を作る
すくみ足の対策で最も重要なのは、「止まらない体を作る」よりも「止まりそうな時に、確実に抜け出す手段を持つ」ことです。FOGはゼロにできないケースも多い一方、抜け出し方を習得すると転倒と恐怖が大きく減ります。
対策は“その場しのぎ”ではなく、あらかじめ型として用意し、トリガーが来たら反射的に使えるレベルまで練習しておくことが理想です。
原則:自動運動を「意図的運動」に切り替える
すくみ足は、自動運動の流れが破綻している状態です。したがって原則は、「自動で歩く」から「意図して歩く」へ切り替えることです。具体的には、外部キューや内的キューを使って、リズムと目標を明確化し、運動出力を再構成します。
この切り替えが上手くなると、“止まること”自体よりも、“止まっても戻せる”という安心が得られ、不安による悪化が減ります。
外部キュー(音・視覚・触覚)を使う基本戦略
外部キューは、身体の内部で作りにくくなったタイミングや目標を外部刺激で補う方法です。代表例は、メトロノームや手拍子、一定テンポの音楽、床のライン(テープ、タイル目地)、杖の先端を目標にする、などです。
実用上は「視覚キュー+短い合図」が使いやすいことが多いです。例えば、床の目標に足を“置く”意識を入れ、「置く、置く」と短く唱える。重要なのは、刺激を増やしすぎないことです。キューが多すぎると注意が散り、逆に固まりやすくなります。
内的キュー(数える・リズム化・合図)を使う基本戦略
内的キューは、外部道具がなくても使える戦略です。「1、2、1、2」と数える、頭の中でメトロノームを鳴らす、歌のリズムを刻む、強調した一歩を作る(“大きく一歩”を合図にする)、などがあります。
内的キューのコツは、短く、単純で、一定であることです。姿勢、腕、足、呼吸…と多項目のセルフ指示を並べると、注意が固着して逆効果になる人もいます。最初は“合図は一つ”から始め、うまくいく人だけ段階的に増やします。
場面別の具体策:トリガーに合わせて準備する
場面別対策の利点は、成功率が上がることです。FOGは“いつ起こるか分からない”と思われがちですが、実際には起こりやすい場所・動作が偏ります。そこに対策を事前配置することで、抜け出しの速度が上がり、転倒が減ります。
対策は「発生後」だけでなく、「発生前の準備動作」を組み込むと強いです。例として、狭所通過前に立ち止まり、呼吸し、目標を決め、テンポを作ってから通過する、といった“通過儀式”は再現性が高いです。
歩き始めの対策(足幅・重心移動・一歩目の作り方)
歩き始めは、APAが必要な局面です。基本は、足幅をやや広げて安定させ、重心を左右どちらかの支持脚へ移し、次の遊脚を“目標に置く”イメージで出します。
実用的な手順は「止まる→息を吐く→目標を見る→数える→一歩目を置く」です。息を吐くのは緊張を抜くためで、呼吸が止まる人ほど有効です。目標は床の一点でもよく、そこへ足を置く意識を入れると、歩幅が確保されやすくなります。
方向転換の対策(大きく回る・分割ターン・視線誘導)
旋回はFOGの代表的トリガーです。対策の基本は“急に一気に回らない”こと。大きく回る、分割ターン(3〜5歩に分ける)、視線を先に向けてから身体を回す、の三点が有効です。
特に分割ターンは安全性が高く、「小さく刻む」のではなく「止まらない範囲で一歩ずつ確実に回る」ことが目的です。本人にとっての適正歩幅を見つけ、キュー(数える、メトロノーム)とセットにすると成功しやすくなります。
狭い場所の対策(ライン・目標物・通過儀式の設定)
狭所では視覚キューが特に有効です。床にラインを想定し、そのラインを跨ぐ、タイル目地を一つずつ踏む、ドア枠の向こう側に目標を置く、などで「どこに足を置くか」を外部化します。
また、通過儀式(例:ドア前で一度止まる→息を吐く→目標を決める→テンポを作る→通る)を固定すると、心理的負荷が下がり、成功率が上がります。儀式化は“遠回り”に見えて、実際は転倒と立ち止まりの総量を減らすことが多いです。
二重課題への対応:負荷を減らし、段階的に増やす
二重課題を避けるのは現実的ではありません。重要なのは、いきなり「会話しながら外で歩く」ではなく、負荷を段階的に調整して成功体験を積むことです。二重課題は“できる/できない”ではなく、“今どの段階なら安全にできるか”で管理します。
また、二重課題が苦手な人ほど、歩行中は「歩行が最優先」というルールを作るだけで事故が減ります。会話は立ち止まってから、荷物は軽量化、スマホは歩行中に触らないなど、生活ルールとしての対策も有効です。
まずは単一課題で成功体験を作る
最初は単一課題で、キューを使いながら安定して歩ける状況を作ります。廊下、一定の床、邪魔のない環境、疲労の少ない時間帯など、成功しやすい条件を揃えます。
ここでのポイントは「成功の型を固定する」ことです。歩き始めの手順、旋回の手順、狭所の手順を同じ流れで繰り返し、身体に覚えさせます。成功体験は、不安の低下と注意の過剰投入を減らし、結果的にFOG頻度を下げることがあります。
会話・荷物・視覚探索を安全に再導入する手順
単一課題が安定したら、負荷を一つだけ足します。例として、①荷物を軽く持つ、②短い会話(相槌程度)を入れる、③目標を探す(視覚探索)を入れる、のように段階付けします。
外ではさらに刺激が増えるため、屋内→屋外(静かな道)→人のいる場所→混雑、と環境の難易度も段階化します。重要なのは、失敗したら戻ることです。失敗を無理に押し切ると恐怖学習が強化され、悪循環に入りやすくなります。
心理・自律神経面へのアプローチ
心理面への介入は、FOGにおいて“補助”ではなく“本体の一部”です。焦り・恐怖は筋緊張を上げ、呼吸を浅くし、視野を狭め、注意を固着させ、結果としてAPAを小さくします。
したがって「不安を減らす」のではなく、「不安があっても動ける手順」を作ることが目的になります。これにより“止まっても大丈夫”という感覚が生まれ、心理的負荷が実際に下がります。
焦りを抑える呼吸・間合い・セルフトーク
最も実装しやすいのは呼吸です。止まりそうな時ほど、短く息を吐いてから動き出す(呼気優位にする)と、体幹と股関節周りの過緊張が下がりやすくなります。
セルフトークは短い言葉が有効です。「止まってOK」「置く」「一歩ずつ」「ゆっくり」など、キューと同じ役割で注意を一点に集約します。長い自己指示は注意を分散しやすいので、原則は短く一定にします。
「止まっても良い」設計で転倒リスクを下げる
FOGは“止まるのが怖い”ほど悪化しやすい性質があります。そこで、止まっても良い設計(安全な立ち止まり、手すりを使う、壁に寄る、道を譲る)を先に作ると、結果として止まりにくくなることがあります。
転倒予防の基本は、無理に抜け出そうとして体勢を崩さないことです。抜け出し戦略は「安定確保→呼吸→キュー→一歩目」という順序で、安全に実行できる型にしておきます。
リハビリでの介入設計:運動学習の視点で組み立てる
リハビリでは、すくみ足を“現象”として扱うだけでなく、運動学習として再構築します。つまり、成功する条件を作り、成功を反復し、条件を少しずつ難しくして汎化させる流れです。
特にFOGは環境依存性が高いため、院内で改善しても生活で再発しやすいです。したがって、キューの導入→キューの減弱→生活場面への導入という段階設計が重要です。最終ゴールは、道具がなくても抜け出せる“最小セット”を持つことです。
課題設定のコツ(難易度・環境・速度・注意配分)
課題設定では、難易度を一度に上げすぎないことが鍵です。難易度は、速度、旋回角度、狭所幅、床の視覚情報量、二重課題の有無、疲労、心理的圧、などで調整できます。
臨床でよくある失敗は、いきなり生活で出る最難関(混雑、急ぎ、狭所)を練習し、失敗して恐怖学習が進むことです。成功率が高い段階から始め、成功率を維持したまま少しずつ課題を追加するのが原則です。
環境調整→キュー導入→キュー減弱の進め方
最初は環境調整で成功率を上げます。次にキューを導入し、成功の型を固定します。その後、キューを減弱(頻度を減らす、視覚目標を小さくする、音の補助を弱める)しても成立するかを確認します。
この流れが重要なのは、生活では常に同じキューが使えるわけではないからです。例えば屋外では床のラインが見えにくいこともあります。そのため、複数のキュー(視覚・音・数える)を持ち、状況で切り替えられるようにします。
主要トレーニングの枠組み
トレーニングは「歩行練習」だけでは不十分で、歩幅・姿勢制御・旋回・切り替え・注意配分をそれぞれ狙います。重要なのは、すくみ足が出る場面を模擬して練習することです。
また、フォームを“正しく”することよりも、生活で“止まりにくく、止まっても抜け出せる”ことが優先です。臨床での評価項目(前兆、APA、視線、腕振り)と対応する練習をセットで組むと、介入がブレにくくなります。
ステップ長の再獲得:大股・ターゲット歩行・メトロノーム
歩幅を取り戻すには、ターゲット歩行(床の目標に足を置く)が有効です。いきなり大股で歩くよりも、目標間隔を少しずつ調整して“安全な歩幅”を再学習します。
メトロノームはテンポを一定にし、ピッチだけが暴走するのを防ぎます。目標は「歩幅を確保しつつ、無理なく一定テンポで進む」ことです。速さは二次的で、まずは止まりにくいリズムを固定します。
姿勢制御:重心移動練習・体幹回旋・股関節伸展の確保
姿勢制御では、支持脚へ乗り込む練習(左右荷重移動、片脚荷重の準備)を行い、APAを明確にします。体幹回旋が乏しい人は、上半身を固めたまま足だけで回ろうとして旋回で止まりやすいため、体幹回旋の協調性を高めます。
また、股関節伸展が不足すると、歩幅が短くなり、前傾が増しやすいです。柔軟性だけでなく、伸展位での支持性(殿筋群の働き)を作ると、重心移動が大きくなり、歩行が安定しやすくなります。
反応性の改善:ストップ&ゴー・方向転換ドリル
生活では、止まる・進む・避ける・曲がるが頻発します。ストップ&ゴーは切り替え能力を高め、方向転換ドリルは旋回型FOGの予防に直結します。
ここでも重要なのは、成功する型を固定することです。止まる時は安定して止まり、進む時は「息→合図→一歩目」を必ず入れる。方向転換は分割ターンを基本にする。こうした手順が自動化されるほど、生活での再現性が上がります。
生活導入と安全管理:転倒予防を最優先にする
生活導入は“練習の最終段階”であり、最も重要です。院内でできても、家の玄関、狭い廊下、トイレ、玄関の段差、スーパーの通路、駅の改札など、生活のトリガーは別物です。
導入の基本は、安全を確保した上で、トリガー場面を一つずつ攻略することです。環境調整と行動手順で成功率を上げ、失敗を恐怖学習にしないことがポイントです。
住環境(段差・照明・動線)の整え方
家の中では、狭所・段差・暗がり・物の多さがトリガーになります。廊下や玄関の動線を確保し、つまずきやすいマットやコードを減らすだけでも転倒は減ります。
照明は意外に重要で、暗いと視覚情報が不安定になり、足元を見すぎて前傾が増えやすいです。夜間のトイレ動線は特にリスクが高いため、足元灯などで視覚環境を安定させます。
補助具・靴・床材の考え方と注意点
補助具(杖、歩行器など)は、支持性を上げるだけでなく、触覚キューとしても機能します。一方で、狭所で取り回しが悪いと逆に不安定になる場合があるため、生活場面との相性が重要です。
靴は、滑りにくさとつまずきにくさ(つま先の形状、ソールの硬さ)を見ます。床材が滑りやすい場合、恐怖と慎重さが増して歩幅が短くなり、FOGを誘発し得ます。環境と身体の相互作用として評価します。
受診・相談の目安と多職種連携
すくみ足はリハビリだけでなく、薬剤調整、環境調整、介護サービス、家族教育など、多面的に支えるほど成果が出やすい症状です。本人の努力に全てを背負わせると、焦りが増えて逆効果になることもあります。
多職種連携では、症状の“型”と“成功した対策”を共有し、生活での再現性を上げることが目的になります。本人・家族・医療者が同じ言葉で同じ戦略を使えるように整えると、改善が加速します。
医療的評価が必要なサイン(急な悪化・頻回転倒など)
急に悪化した、転倒が増えた、意識が遠のく感じがある、立ちくらみが強い、歩行以外の症状(認知、幻視など)が変化した、といった場合は医療的評価が必要です。
すくみ足が目立っても、背景に低血圧、感染、睡眠障害、薬剤の影響、痛み、抑うつなどが隠れていることがあります。急な変化は“体調の変化”のサインとして扱い、自己判断で抱え込まないことが重要です。
薬剤調整・併存症(低血圧・認知機能)への視点
薬剤調整では「いつ」「どこで」「どのタイプのFOGが」「どの程度出たか」が情報になります。開始型が増えたのか、旋回型が増えたのか、オフ時間に集中しているのか、などを具体的に伝えると、調整の議論がしやすくなります。
併存症としては、起立性低血圧は転倒と不安を増やし、認知機能低下は二重課題耐性を下げます。これらがある場合は、環境調整と行動手順の比重を上げ、複雑なセルフ指示より“単純な合図”へ寄せる設計が現実的です。
チームで支える:本人・家族・医療者の共有ポイント
支援で重要なのは、本人が使える戦略が“周囲にも理解されている”ことです。家族が焦らせたり、急がせたりするとFOGが悪化しやすいため、声かけのルールも含めて共有します。
また、成功した対策は“固定化”します。毎回違うことを試すと、本人の注意が分散し、逆に固まりやすくなります。チームで「この人はこのキューが効く」「この場面はこの手順」と決め、繰り返し実装することが再現性につながります。
起こりやすい場面と成功した対策を「共通言語化」する
共通言語化とは、本人が言える言葉で、家族や医療者も同じ意味で理解できる形にすることです。例えば「ドア前は“止まって息→目標→1、2で出る”】【曲がる時は“分割ターン”】【混雑は“会話しない”】【止まりそうになったら“置く”】など、短く、具体的で、実行可能な言葉に落とし込みます。
この共通言語があると、生活での介入が一貫し、成功率が上がります。結果として“止まっても大丈夫”が“止まりにくい”へつながっていきます。
まとめ:すくみ足は「場面×切り替え戦略」で再現性が上がる
すくみ足は、歩行の自動化が破綻し、開始・旋回・狭所・二重課題など“切り替えが必要な場面”で表面化しやすい現象です。対策の核は、止まらない体づくりだけでなく、止まりそうな瞬間に「自動運動→意図的運動」へ切り替える戦略を持つことにあります。
具体的には、(1)起こりやすい場面を記録してトリガーを特定し、(2)前兆(減速・小刻み化・視線固定など)を早期に察知し、(3)外部/内的キューで注意を一点に集約し、(4)歩き始め・旋回・狭所に対して手順(儀式)を固定し、(5)二重課題は段階的に再導入する――という流れで再現性が上がります。
リハビリでは、環境調整→キュー導入→キュー減弱→生活場面への汎化という運動学習の設計が重要です。チームで成功した対策を共通言語化し、同じ戦略を繰り返すことで、転倒リスクと恐怖の悪循環を断ち切り、生活の自由度を取り戻すことが現実的なゴールになります。
